墨場必携:和歌 五月雨
このたびは梅雨の時期にちなんで「さみだれ」の特集です。今回は平安末から鎌倉・室町期から御紹介しています。雨の歌については、連載第12回、第36回、第60回(近世のみ)にも文例があります。併せて御利用下さい。
よく知られた表記「五月雨」のほかに、以下の文例では「梅雨」も「さみだれ」に当てて用いています。
22.6.13 東京都清瀬市
五月雨に はなたちばなの かをる夜は
月すむ秋も さもあらばあれ
崇徳院「千載和歌集」176
五月雨に あささはぬま(浅沢沼)の 花かつみ
かつ見るままに かくれゆくかな
藤原顕仲朝臣「千載和歌集」180
※花かつみ(菖蒲の仲間)と「かつ見る」の「かつみ」、同音反復を楽しむ歌。
22.6.10 東京都清瀬市
五月雨に 小田のしめなは ふりはへて
ながき日ぐらし 早苗とるなり
「院四十五番歌合(1215年)」26
※早苗とる:田植えするの意
22.6.5 東京都志木市
五月雨の雲の晴まを待ちえても
月みる程の夜は(夜半)ぞすくなき
「内裏百番歌合(1216年)」46
つれもなき月を待つとて時鳥[ほととぎす]
なく(鳴く)はなみだ(涙)の五月雨の空
「院御歌合(1247年)」59
人しれずまたれしものを
梅雨[さみだれ]の空にふりぬる時鳥[ほととぎす]かな
「院御歌合(1247年)」61
庭にちる花たちばなの梅雨[さみだれ]に
声はしをれぬ時鳥[ほととぎす]かな
「院御歌合(1247年)」77
花菖蒲 22.6.12 東京都東久留米市北山公園
やみぬ(止みぬ)とて 出づるも ふかき雲なれば
後[のち]さへ暗し 五月雨の空
「百首歌合(1256年)」1063
いかにせむ うき(憂き)には空を見しものを
くもりはてぬる五月雨の比[ころ]
「百首歌合(1256年)」1037
あま雲の上ゆく月のます鏡
みぬめのうらの五月雨の比[ころ]
「宗尊親王百五十番歌合(1261年)」120
緑こき(濃き)をち(遠方)の山端[やまのは]晴れそめて
雲たちのぼる五月雨の空
「仙洞五十番歌合(1303年)」40
花菖蒲 22.6.12 東京都東久留米市北山公園
軒菖蒲
五月雨は あやめにすかく(巣掛く)ささがにの
糸さへながき軒の玉水
正徹「草根集」2434
※ささがに:「細 (ささ)蟹」は蜘蛛のこと。
水鶏[くひな]
夜をかさね水鶏ぞたたく天の戸も
とぢたる雲の五月雨の比[ころ]
正徹「草根集」2442
※水鶏:水辺の鳥。古来「鳴く」ことを「叩く」と表現し、戸を叩く、
人を訪うなどの内容を含む歌に点景として詠まれた。
水鶏 22.2.21 東京都清瀬市
五月雨
道の辺[へ]や 人もかよはぬ五月雨の
空に行き来の 雲ぞ ひま[隙]なき
正徹「草根集」2517
五月雨
天の川今ぞ八十瀬[やそせ]にあまるとも
いさ しら波の落つる五月雨
正徹「草根集」2518
※第四句 いさ:さあそれは知らない。
感知しないという言い方で、否定的態度を示す語。
五月雨
晴るるにも降るにもあらぬ浮雲も
身を中空の五月雨の比[ころ]
正徹「草根集」2520
五月雨
夕ま暮 雲まのみどりかつ見るは
月にぞまさる五月雨の空
正徹「草根集」2523
カルガモ親子 22.6.2 東京都清瀬市
五月雨
池はらふ 風の立葉も下折れぬ
蓮のいとの さみだれのころ
正徹「草根集」2525
五月雨
ふる日をば 中中いはず(なかなか言わず)
晴れやらで くもるをいとふ五月雨の比[ころ]
正徹「草根集」2527
五月雨
五月雨はむら雲いでて くらき夜の
北にながるる 星のかげかな
正徹「草根集」2545
22.6.6 東京都清瀬市
梅雨
五月雨の晴行く雲を
かづらきの山人のみや よそに見るらん
正徹「草根集」2567
※かづらきの山人:葛城の仙人
梅雨
雪と見し 花にたがひて
梅がえ(枝)の 実を紅に そむる雨かな
正徹「草根集」2569
"晴レ間ヲ 待ッテ オ散歩ニ 来マシタ
下ハ 濡レテテ 座リタクナイノ"
【文例】 散文へ