墨場必携:訳詩 近現代詩 春の雪
雪の朝翡翠 22.2.4 東京都清瀬市
春の雪 伊東静雄(「春のいそぎ」より)
みささぎにふる はるの雪
枝透(す)きて あかるき木々に
つもるとも えせぬけはひは
なく声の けさはきこえず
まなこ閉ぢ 百(もも)ゐむ鳥の
しづかなる はねにかつ消え
ながめゐし われが想ひに
下草の しめりもかすか
春来むと ゆきふるあした
雪の朝 22.2.13 箱根
そんなに凝視めるな 伊東静雄(「反響」より)
そんなに凝視[みつ]めるな わかい友
自然が与える暗示は
いかにそれが光耀にみちてゐようと
凝視めるふかい瞳にはつひに悲しみだ
鳥の飛翔の跡を天空[そら]にさがすな
夕陽と朝陽のなかに立ちどまるな
手にふるる野花はそれを摘み
花とみづからをささへつつ歩みを運べ
問ひはそのままに答えであり
堪へる痛みもすでにひとつの睡眠[ねむり]だ
風がつたへる白い稜石[かどいし]の反射を わかい友
そんなに永く凝視めるな
われ等は自然の多様と変化のうちにこそ育ち
あゝ 歓びと意志も亦[また]そこにあると知れ
オ散歩ニ 来マシタ