墨場必携:漢詩 漢文 夏川[かせん] 江村北海 他
夏川[かせん] 江村北海
河上烟嵐畳碧紗
南風吹動水紋斜
夕陽纔斂飛螢乱
却勝春流泛落花
河上[かじよう]の烟嵐[えんらん]碧紗[へきさ]を畳[かさ]ね、
南風吹き動かし水紋斜めなり。
夕陽纔[わづ]かに斂[をさ]まり飛螢[ひけい]乱るるは、
却つて勝る春流の落花を泛[うか]ぶるに。
※南風:南から吹く風、夏のさわやかな風。
川面にたちこめたかすみや靄は碧い紗を重ねたよう。
南風がそよと吹き、水面に小波を斜めに立てる。
夕日がようやく隠れて螢が乱れ飛ぶのは、
かえって春の川が散る花びらがを浮かべて流れているのよりも勝っている。
21.7.20 東京都清瀬市
螢 清田儋叟
暮靄纔収片月残
蘆蒲螢照水漫漫
夜涼時被風吹墜
點點随波下残灘
暮靄[ぼあい]纔[わず]かに収まり片月[へんげつ]残り、
蘆蒲[ろほ]螢は照らし水漫漫。
夜涼しくして時に風に吹き墜とされ、
点点として波に随ひて浅灘[せんたん]を下る。
※浅灘:灘は浅く石が多く流れの速い所。
夕暮れ時の靄がやっと消えて片割れの月が懸かり、
蘆や蒲を螢が照らして川の水はゆったりと広い。
夜は涼しく螢が時には川風に吹き堕とされることもあり、
あちらこちらに波に揺られて浅瀬を下ってゆく。
江上夜帰[こうじようやき] 江馬天江
江上風涼夜
人帰垂柳村
荷花同月白
水面不留痕
江上風涼しき夜、
人は垂柳の村に帰る。
荷花[かか]月と同じに白く、
水面痕を留めず。
※荷花:蓮の花。
川のほとりの風の涼しい夜
人は枝垂れ柳の村に帰る。
荷(はす)の花は月光と同じように白いので、
水の面に花の影を映しもしない。
19.7.31 東京都東久留米市
愛蓮説 周濂渓
水陸艸木之花、可愛者甚蕃。晋陶淵明独愛菊。自李唐来、世人甚愛
牡丹。予独愛蓮之出淤泥而不染、濯清漣而不妖、中通外直、不蔓不枝
香遠益清、亭亭浄植、可遠観而不可褻翫焉。
予謂、菊花之隠逸者也。牡丹花之富貴者也。蓮花之君子者也。噫、
菊之愛、陶後鮮有聞。蓮之愛、同予者何人。牡丹之愛、宜乎衆矣。
水陸草木の花、愛すべき者甚[はなはだ]だ蕃[おほ]し。晋の
陶淵明は独り菊を愛す。李唐より来[このかた]、世人[せじん]
甚だ牡丹を愛す。予、独り愛す、蓮の淤泥[おでい]より出でて染
まらず、清漣[せいれん]に濯[あら]はれて妖[なまめ]かず、
中通[とほ]り外直[なほ]く、蔓あらず、枝あらず、香り遠
[とほ]くして益々清く、亭亭として浄[きよ]く植[た]ち、遠
[とほ]く観るべくして褻[な]れ翫[もてあそぶ]べからざるを。
予謂[おも]へらく、菊は華の隠逸[いんいつ]なる者なり。牡丹
は華の富貴なる者なり。蓮は華の君子なる者なりと。噫[ああ]、
菊を愛するは、陶の後聞く有ること鮮[すくな]し。蓮を愛するは、
予と同じき者何人[なんびと]ぞや。牡丹を愛するは、宜[むべ]
なるかな衆[おほ]きこと。
河上烟嵐畳碧紗
南風吹動水紋斜
夕陽纔斂飛螢乱
却勝春流泛落花
河上[かじよう]の烟嵐[えんらん]碧紗[へきさ]を畳[かさ]ね、
南風吹き動かし水紋斜めなり。
夕陽纔[わづ]かに斂[をさ]まり飛螢[ひけい]乱るるは、
却つて勝る春流の落花を泛[うか]ぶるに。
※南風:南から吹く風、夏のさわやかな風。
川面にたちこめたかすみや靄は碧い紗を重ねたよう。
南風がそよと吹き、水面に小波を斜めに立てる。
夕日がようやく隠れて螢が乱れ飛ぶのは、
かえって春の川が散る花びらがを浮かべて流れているのよりも勝っている。
21.7.20 東京都清瀬市
螢 清田儋叟
暮靄纔収片月残
蘆蒲螢照水漫漫
夜涼時被風吹墜
點點随波下残灘
暮靄[ぼあい]纔[わず]かに収まり片月[へんげつ]残り、
蘆蒲[ろほ]螢は照らし水漫漫。
夜涼しくして時に風に吹き墜とされ、
点点として波に随ひて浅灘[せんたん]を下る。
※浅灘:灘は浅く石が多く流れの速い所。
夕暮れ時の靄がやっと消えて片割れの月が懸かり、
蘆や蒲を螢が照らして川の水はゆったりと広い。
夜は涼しく螢が時には川風に吹き堕とされることもあり、
あちらこちらに波に揺られて浅瀬を下ってゆく。
江上夜帰[こうじようやき] 江馬天江
江上風涼夜
人帰垂柳村
荷花同月白
水面不留痕
江上風涼しき夜、
人は垂柳の村に帰る。
荷花[かか]月と同じに白く、
水面痕を留めず。
※荷花:蓮の花。
川のほとりの風の涼しい夜
人は枝垂れ柳の村に帰る。
荷(はす)の花は月光と同じように白いので、
水の面に花の影を映しもしない。
19.7.31 東京都東久留米市
愛蓮説 周濂渓
水陸艸木之花、可愛者甚蕃。晋陶淵明独愛菊。自李唐来、世人甚愛
牡丹。予独愛蓮之出淤泥而不染、濯清漣而不妖、中通外直、不蔓不枝
香遠益清、亭亭浄植、可遠観而不可褻翫焉。
予謂、菊花之隠逸者也。牡丹花之富貴者也。蓮花之君子者也。噫、
菊之愛、陶後鮮有聞。蓮之愛、同予者何人。牡丹之愛、宜乎衆矣。
水陸草木の花、愛すべき者甚[はなはだ]だ蕃[おほ]し。晋の
陶淵明は独り菊を愛す。李唐より来[このかた]、世人[せじん]
甚だ牡丹を愛す。予、独り愛す、蓮の淤泥[おでい]より出でて染
まらず、清漣[せいれん]に濯[あら]はれて妖[なまめ]かず、
中通[とほ]り外直[なほ]く、蔓あらず、枝あらず、香り遠
[とほ]くして益々清く、亭亭として浄[きよ]く植[た]ち、遠
[とほ]く観るべくして褻[な]れ翫[もてあそぶ]べからざるを。
予謂[おも]へらく、菊は華の隠逸[いんいつ]なる者なり。牡丹
は華の富貴なる者なり。蓮は華の君子なる者なりと。噫[ああ]、
菊を愛するは、陶の後聞く有ること鮮[すくな]し。蓮を愛するは、
予と同じき者何人[なんびと]ぞや。牡丹を愛するは、宜[むべ]
なるかな衆[おほ]きこと。
【文例】 和歌へ