墨場必携:和歌
21.11.18 東京都清瀬市
是貞皇子の家の歌合によめる
久方の月の桂も秋はなほ
もみぢすればや 照りまさるらむ
『古今和歌集』194 壬生忠岑
紅葉せぬ ときはの山は
吹く風のおとにや秋をききわたるらむ
『古今和歌集』251 紀淑望
秋は来ぬ 紅葉はやどにふりしきぬ
道ふみわけてとふ人はなし
『古今和歌集』287 よみ人しらす
道しらばたづねもゆかむ
もみちばを幣[ぬさ]とたむけて秋は去[い]にけり
『古今和歌集』313 凡河内躬恒
もみぢ葉を風にまかせて見るよりも
はかなきものは命なりけり
『古今和歌集』859 大江千里
玉かつら葛木山[かづらぎやま]のもみぢ葉は
おもかげにのみ 見えわたるかな
『後撰和歌集』391 紀貫之
もみぢ葉は散る木[こ]のもとにとまりけり
過(ぎ)行く秋やいづちなるらむ
『後撰和歌集』38 詠み人知らず
たに川[かは]にしがらみかけよたつた姫
みねのもみぢにあらし吹くなり
『金葉和歌集』 247 詠み人知らず
21.11.15 東京都清瀬市
秋風の吹きあげにたてる白菊は
花かあらぬか浪のよするか
『寛平御時菊合』(寛平初年 889 頃)8菅原道真
この花に花つきぬらし
せきかはの絶えずもみよと折[を]れる菊の枝[え]
『寛平御時菊合』10
ちりはてて花なきときの花なれば
うつろふ色の惜[を]しくもあるかな
『寛平御時内裏菊合』1
いまよりはまたさく花もなきものを
いたくなおきそ 菊のうへの露
『新古今和歌集』509 源定頼
◎菊はこれがその年咲く最後の花として詠まれることが多かったよう
である。
21.11.7 東京都清瀬市
うゑしうゑば秋なき時やさかざらむ
花こそちらめ根さへかれめや
『古今和歌集』268 在原業平
久方の雲のうへにて見る菊は
あまつほし(星)とぞあやまたれける
『古今和歌集』269 藤原敏行
露ながらをりてかざさむ菊の花
おいせぬ秋のひさしかるべく
『古今和歌集』 270 紀友則
仙宮に菊をわけて人のいたれるかたをよめる
ぬれてほす山路[やまち]の菊のつゆのまに
いつかちとせを我はへにけむ
『古今和歌集』273 素性法師
(『寛平御時菊合』17)
山人[やまびと]のをる袖にほふ菊のつゆ
うちはらふにも千代はへぬべし
『新古今和歌集』719 藤原俊成
◎菊を愛好する趣味は中国の老荘思想に関係が深く、神仙譚に
よく馴染む。不老長寿や不死の世界とも連絡し、幻想的、
物語的な詩歌で詠まれることも多い。菊酒、菊の露などは実際に
延命長寿に利くとされ、我が国でも、菊花は長寿の祝(賀の祝)
の決まりものであった。
21.11.15 東京都清瀬市
世中のはかなきことを思ひけるをりに
きくの花を見てよみける
秋の菊にほふかぎりはかざしてむ
花よりさきとしらぬわが身を
『古今和歌集』276 紀貫之
いのりつつ なほ長月の菊の花
いづれの秋かうゑて見ざらむ
『新古今和歌集』718 紀貫之
【文例】 唱歌・童謡へ