墨場必携:漢文 聴蜀僧濬弾琴 李白
21.11.3 東京都清瀬市
聴蜀僧濬弾琴[蜀僧濬の琴を弾ずるを聴く] 李白
蜀僧抱緑綺
西下峨眉峰
為我一揮手
如聴萬壑松
客心洗流水
遺響入霜鐘
不覚碧山暮
秋雲暗幾重
蜀僧[しよくそう]緑綺[りよくき]を抱き
西の方峨眉の峰を下る
我が為に一たび手を揮へば
万壑[ばんがく]の松を聴くが如し
客心[かくしん]流水に洗はれ
遺響[いきやう]霜鐘[さうしよう]に入る
覚えず碧山の暮れ
秋雲暗きこと幾重[いくちよう]
※緑綺:漢の文人司馬相如の琴の銘。転じて琴の異名。
蜀の僧が緑綺を抱き、
西方の峨眉山の峰を下ってきた。
私のためにひとたび琴をかき鳴らせば、
何万という谷の松風を聴くようだ。
旅を行く私の心は流れる水のような琴の音に洗われ、
余韻は霜が降ると鳴り出すという鐘の中に吸い込まれてゆく。
気がつけば、いつの間にか碧の山は暮れて、
秋の雲は暗く幾重にも立ちこめている。
21.10.21 東京都清瀬市
弾琴[琴を弾す] 劉長卿
洽洽七絃上
静聴松風寒
古調雖自愛
今人多不弾
洽洽[かふかふ]たり七絃[しちげん]の上
静かに聴けば松風寒し
古調[こてう]自[おのづか]ら愛すと雖[いへど]も
今人[きんじん]は多く弾[だん]ぜず
調べは七つの絃の上をさやさやと(洽洽)響き、
静かに聴き入っていると、音色は松をわたる秋の風に和して
ひんやりと身にしみる。
古い音調にはそれなりの良さがあるが、
今の人はほとんどこの楽器を弾かなくなってしまった。
秋夜宴山池[秋夜山池に宴す] 從四位上治部卿境部王 『懐風藻』
對峰傾菊酒
臨水拍桐琴
忘歸待明月
何憂夜漏深
峰に対[むか]ひて菊酒を傾け、
水に臨んで桐琴を拍つ。
帰るを忘れて明月を待つ。
何ぞ憂へんや夜の漏として深きを。
【文例】 和歌へ