2010年9月24日

墨場必携:散文 月光 月影 秋の月

  この度は秋の「月」「月光」「月影」の文例を集めました。

     
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                                        22.9.18 東京都清瀬市

  国木田独歩「武蔵野」

     月を蹈[ふ]んで散歩す、青煙地を這ひ月光林に砕く。

     ※青煙:もや、霧。


  夏目漱石「行人」

     一寝入[ひとねいり]して眼が醒めると、明かるい月が出て、
   その月が青い柳を照していた。


  中島敦「ミクロネシヤ巡島記抄」

    この白い径[みち]が月光の下を何処[どこ]までも続いて
   いるやうな気がする。(中略)微風。月光。

     
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                                        22.9.20 東京都清瀬市


  宮沢賢治「秋田街道」

    今は崇高な月光のなかに何かよそよそしいものが漂ひはじめた。
   その成分こそはたしかによあけの白光らしい。
    東がまばゆく白くなった。月は少しく興さめて緑の松の梢に高
   くかかる。


  小泉八雲「ろくろ首」(『怪談』所収)

   空には雲もなく、風もなかった。強い月光は樹木のはっきりした黒
  影を投げて、庭の露の上に輝いていた。きりぎりすや鈴虫の鳴き声は、
  騒がしい音楽となっていた。近所の滝の音は夜のふけるに随って深く
  なった。


  高山樗牛「瀧口入道」

   驚きて起[た]つ群雀[むらすゞめ]、行衞[ゆくへ]も知らず飛
  び散りたる跡には、秋の朝風音寂しく、殘[のこ]んの月影夢の如く
  淡し。

      
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                                        22.9.20 東京都清瀬市
  
  海野十三「崩れる鬼影」
  
  「今夜は満月でしょう」
  「そうだ、満月だ。月が一番美しく輝く夜だ。まるで手を伸ばすと届く
  ような気がする。昔嫦娥[じょうが]という中国人は不死の薬を盗んで
  月に奔[はし]ったというが、恐らくこのような明るい晩だったろう」

      
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                                        22.8.10 東京都清瀬市

  高村光太郎「山の秋」

   名月は大てい十月初旬だが、うまい月の位置があるもので、ちょうど
  人間が空を仰ぎ見るのに都合のいい角度で空にあらわれる。わたくしの
  小屋のあたりから見ると、北上山系の連山、早池峯山[はやちねさん]
  の南寄りの低い山のあたりからのぼりはじめ、一晩かかって南の空を秋
  田境の連山までゆるゆるとわたる。塵ひとつないきれいな空だから思い
  きりあかるい。風呂に入れば湯ぶねの中にも月光はさし、野に出ればス
  スキの穂波が銀にきらめく。まったく寝るのが惜しくなって、わたくし
  はよくその光にぬれて深夜まで人っ子ひとり居ない野や山を歩いたもの
  だ。


  斎藤茂吉「ドナウ源流行」

   汽車は以上のように山峡を走っている。月光は流れるように谷間を
  照らしている。汽車が駅に著くと、若者は山上を指[ゆびさ]して呉
  れた。そして慇懃に会釈し、僕の手を強く握って降りて行った。そこ
  から僕ひとりになった。そしてしばらく窓をあけて月の光を見た。
   僕は山上の孤児院のことを思い、そこに勤めている若い女のことを
  思った。遙々と留学して来て以来、月光のこのように身に沁みたこと
  は、今までになかった。業房(ぎょうぼう)に閉じ籠もって根をつめ
  て居たせいもあろうが、月光を顧みたことなどはついぞなかった。然
  るに今夜は不思議にも、生れ故郷の月を見るような気がしてならない。
  この月に照らされているドナウがうねりながら遙か向かうに見えなく
  なるのをみていると、目に涙のにじんで来るやうな気がした。僕は
  "Tiefsten Ruhens Gl※(ダイエレシス付きU小文字)ck besiegelnd herrscht
  des Mondes volle Pracht"のところのファウストの句、「いと深き甘寝
 [うまい]の幸[さち]を護りて、月のまたき光華は上にいませり」を思
  い出していた。



      
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        "オ散歩ニ  ミンナモ来ナイカナ"
   近くの柳瀬川堤も夏の賑わいが絶え、猫の森もまた静かになりました。
   猫たちには穏やかな秋の風が吹いていますが、
                      ちょっと寂しそうでもあり...
  


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