2009年9月 1日

墨場必携:訳詩 近現代詩


29ヒマワリ3.jpg                                             21.8.29 東京都清瀬市

  向日葵    野口米次郎

  お前は情調から破れ出る、
  私共は悲しくも経験に執着[しふぢやく]する。
  お前の各原子は、生命の奇蹟に燃える、
  如何に充実の生命にお前は生きるよ。
  日光に生きる情熱家、
  誇りある青春の表象。
  お前は歌を寒気に向け、影に向けようと思つたことがあるか。
  お前は舞ひ上がる色彩の抒情詩だ、
  無言の歌にお前は飛躍する。
  お前は生命の意味を呑みほし...
  ああ、驚くべき自意識、
  ああ、壮大な存在感。

          
26ki.jpg                                            21.7.26 東京都清瀬市

          
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  私は太陽を崇拝する     野口米次郎

  私は太陽を崇拝する...
  その光線のためでなく、太陽が地上に描く樹木の影のために。
  ああ、喜ばしき影よ、まるで仙女の散歩場のやうだ、
  其処で私は夏の日の夢を築くであらう。

  私は女を礼拝する...
  恋愛のためでなく、恋愛の追憶のために。
  恋愛は枯れるであらうが、追憶は永遠に青い、
  私は追憶の泉から、春の歓喜を汲むであらう。

  私は鳥の歌に謹聴する...
  それは声のためでなく、声につづく沈黙のために。
  ああ、声の胸から生まれる新鮮な沈黙よ、死の諧音よ、
  私はいつも喜んでそれを聞くであらう。

          
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  秋    西脇淳三郎
      「近代の寓話」所収

  タイフーンの吹いている朝
  近所の店へ行って
  あの黄色い外国製の鉛筆を買った
  扇のように軽い鉛筆だ
  あのやわらかい木
  けずつた木屑を燃やすと
  バラモンのにおいがする
  門をとじて思うのだ
  明朝はもう秋だ


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