墨場必携:訳詩 近現代詩 石川啄木他
21.8.16東京都清瀬市
蜻蛉に寄す 石川啄木
あんまり晴れてる 秋の空
赤い蜻蛉[とんぼ]が 飛んでゐる
淡[あは]い夕陽を 浴びながら
僕は野原に 立つてゐる
遠くに工場の 煙突が
夕陽にかすんで みえてゐる
大きな溜息 一つついて
僕は蹲[しやが]んで 石を拾ふ
その石くれの 冷たさが
漸[ようや]手中[しゆちう]で ぬくもると
僕は放[ほか]して 今度は草を
夕陽を浴びてる 草を抜く
抜かれた草は 土の上で
ほのかほのかに 萎[な]えてゆく
遠くに工場の 煙突は
夕陽に霞[かす]んで みえてゐる
風・光・木の葉 大木淳
一すぢの草にも
われはすがらむ、
風のごとく。
かぼそき蜘蛛の糸にも
われはかゝらむ、
木[こ]の葉のごとく。
蜻蛉[あきつ]のうすき羽にも
われは透[す]き入らむ、
光のごとく。
風、光、
木の葉とならむ、
心むなしく。
※「心むなしく」:心を空にして、虚心に、の意。ここに不満足の意味を含まない。
21.8.15 東京都清瀬市
小曲 大木淳
想ひ
かすかに
とらへしは、
風に
流るる
蜻蛉(あきつ)なり。
霧に
ただよふ
おちばなり。
影と
けはひを
われは歌ふ。
21.8.15 東京都清瀬市
月見草 勝田香月 文部省唱歌
夕霧こめし 草山に
ほのかに咲きぬ 黄なる花
都の友と 去年[こぞ]の夏
手折[たを]り暮しし 思い出の
花よ 花よ
その名も ゆかし 月見草
月影白く 風ゆらぎ
ほのかに咲きぬ 黄なる花
都にいます 思い出の
友に贈らん 匂いこめ
花よ 花よ
その名も いとし 月見草
風清く 袂かろし
友よ 友よ 来たれ 丘に
静けくも 月見草 花咲きぬ
21.8.15 東京都清瀬市
月見草 三木露風
黄いろい月が彼方の野から出て
その光を受けた月見草が
優しくほんのりと
静かな風にゆらめく
ああ月見草の影もする
明るい月夜
露ももうおき初めた野の小径の傍の草に
月見草の歌 山川清
はるかに海の見える丘
月のしずくをすって咲く
夢のお花の月見草
花咲く丘よ なつかしの
ほんのり月が出た宵は
こがねの波がゆれる海
ボーと汽笛をならしてく
お船はどこへ行くのでしょう
思い出の丘 花の丘
きょうも一人で月の海
じっとながめる足もとに
ほのかに匂う月見草
【文例】 唱歌・童謡へ