墨場必携:漢詩 漢文

静夜吟 邵雍
月到天心處
風来水面時
一般清意味
料得少人知
月天心[てんしん]に到る処[ところ]
風水面に来たる時
一般[いつぱん]清意[せいい]の味[あじはひ]
料[はか]り得たり人の知ること少[まれ]なるを
月は天の中心にかかり、
風は一陣水面を吹き払う。
このすべてさわやかな味わいよ。
これを知る人はまれである。

涼夜[りやうや] 高啓
一声遠笛数声砧
月満江城夜正深
占拠胡牀愛涼夜
空階移盡桂花陰
一声の遠笛[えんてき]数声の砧[きぬた]。
月江城に満ち、夜は正に深し。
胡牀[こしやう]を占拠して涼夜を愛す。
空階[くうかい]移り盡[つ]く桂花[けいか]の陰。
一ふしの笛の音が遠くから響き、あちらこちらから砧を打つ音がする。
川に面した町に月光が満ちる、折しも真夜中。
腰掛けを独り占めしてこの涼しい夜を楽しんでいると、
人気のない階(きざはし)を桂花(もくせい)の陰が移り過ぎてゆく。

秋夜月 劉基
秋夜月 黄金波
照人哭 照人歌
人歌人哭月長好
月缼月圓人自老
秋夜の月、黄金の波、
人の哭[こく]するを照らし、人の歌ふを照らす。
人歌ひ、人哭し、月長[とこしへ]に好し、
月欠け、月円かに、人自づから老ゆ。
秋の夜の月、黄金の波と地に注ぎ、
哭(な)く人を照らし、歌う人を照らす。
この世には歌う人あり、哭く人あり、月は永久(とわ)に変わらず美しい光を注ぎ、
月が欠け、また月が満ちるうちに、人は老いてゆく。

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