2009年5月 1日

墨場必携:漢文

         
26mori.jpg                                           21.4.26 東京都清瀬市

「夏初遊桜祠(夏の初め桜祠[おうし]に遊ぶ)」 廣瀬旭荘

   花開萬人集
   花盡一人無
   但見雙黄鳥
   緑陰深處呼

  花開けば万人集まり、
  花尽くれば一人も無し。
  但[た]だ見る双黄鳥の、
  緑陰深処に呼ぶを。

  花が咲くと大勢の人が集まるが、
  花が終われば誰一人来ない。
  ただ二羽の黄鳥(うぐいす)が、
  緑深い葉陰に鳴き交わしているだけ。

   ※桜祠:桜の宮。花見の名所として知られる。
    黄鳥:鶯

         
5tori1.jpg                                          鶯 21.4.5 東京都清瀬市


「初夏」   市河米庵

   三尺松魚出海
   一聲杜宇穿雲
   報知朱夏消息
   二物偏能策勲

  三尺の松魚[しようぎよ]海を出で、
  一声の杜宇[とう]雲を穿つ。
  朱夏の消息を報知するは、
  二物[にぶつ]偏[ひとへ]に能く勲[くん]を策す。

   ※出海:海で獲れたこと。
    杜宇:ほととぎす。
    朱夏:夏。「朱」は五行で夏を指す色。
    消息:時節の移り変わり。
    策勲:勲功を記録する。「策」は竹簡。
  
  三尺の松魚(かつお)が獲れた。
  一声鳴いて杜宇(ほととぎす)が雲を衝くように天高く上がる。
  夏になることを知らせるのは、
  ことにこの二つの働きが大きい。

※市河米庵(1779〜1858)。詩形は六言絶句。
 目には青葉山時ほととぎす初鰹(素堂『江戸新道(えどしんみち)』)の意匠に同じ。
 『江戸新道』池西言水編は談林風俳諧の撰集。延宝6年(1678)の刊。

         
5kamo2.jpg                                              21.4.5 東京都清瀬市


  
      

「初夏閒居(しょかかんきょ)」   牧野鉅野

   残花落盡送残春
   雨後葱蘢緑樹新
   謝客任荒林外徑
   抛書懶掃几頭塵
   巢梁乳燕相呼母
   浴水閒鷗不避人
   賴有老妻能醸酒
   怡然對飲脱烏巾

  残花[ざんくわ]落ち盡して残春を送り
  雨後葱蘢[さうろう]として緑樹新たなり。
  客を謝して荒るるに任かす林外の徑、
  書を抛[なげうち]て掃ふに懶[ものう]し几頭の塵。
  梁に巢くふ乳燕は母を相ひ呼び、
  水に浴する閒鷗[かんおう]は人を避けず。
  賴[さいはひ]に老妻の能く酒を醸[かも]す有れば、
  怡然[いぜん]として對飲[たいいん]するに烏巾[うきん]を脱ぐ。

   ※葱蘢:緑が繁るさま。
    謝客:来客を断る、拒絶する。
    乳燕:赤ん坊の燕。
    間鷗:間(ひま)な鷗。
    怡然:喜び楽しむさま。
    烏巾:烏は黒色、巾は頭巾。ここではこれで新醸の酒を濾すものと思われる。

  残りの花はすっかり落ち、残りの春を見送ると、
  雨上がりに青々と繁った緑の樹木が新鮮に映る。
  客の来訪を断って、林の外の径(こみち)は荒れたまま、
  書物を抛り出して、机の上は別段塵も払わない。
  梁の上に住む燕の子は皆で母燕を呼び、
  水浴びする間(閑ひま)な鷗は人を避けることもない。
  幸運なことに老妻が上手に酒を造るので、
  差し向かいで楽しく飲むのに黒い頭巾を脱ぐ。

         15kar1.jpg     
15kar2.jpg                                 カラスの行水 21.4.15 東京都清瀬市柳瀬川

【文例】 和歌

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