2009年7月 1日

墨場必携:散文

  
14kamoyasp.jpg                                          21.6.14 東京都清瀬市

  月秋と期して身いづくか。
 (月は秋と約して、秋が来れば清い光を放つけれど、
  それを愛したあの人はどこへ行ってしまったのだろう。)
                      『清少納言枕草子』135段
  ※例文[漢詩]「為謙徳公報恩修善願文 菅三品」を引用。



  月のあかき見るばかり、遠く物思ひやられ、過ぎにし事、憂かりしも、嬉し
  かりしも、をかしと  覺えしも、只今のやうに覺ゆる折やはある。こまのの
  物語は、何ばかりをかしき事もなく、詞もふるめき、見物多 からねど、月に
  昔を思ひ出でて、むしばみたる蝙蝠とり出でて、もと見し駒にといひて立てる、
  いとあはれなり。
                       『清少納言枕草子』292段

  人は己をつゞまやかにし、おごりを退けて財をもたず、世をむさぼらざらんぞ
  いみじかるべき。むかしより、賢き人の富めるは稀なり。
                           『徒然草』17段

  風も吹きあへずうつろふ人の心の花になれにし年月を思へば、あはれと聞きし
  ことの葉ごとに忘れぬものから、我が世の外になりゆくならひこそ、亡き人の
  別れよりもまさりて悲しきものなれ。
                           『徒然草』26段

 
tsuki3.jpg                                         20.10.16 東京都清瀬市


  しづかに思へば、よろづに過ぎにしかたの戀しさのみぞせんかたなき。
                           『徒然草』29段

  人しづまりて後、ながき夜のすさびに、なにとなき具足とりしたゝめ、
  殘しおかじと思ふ反古な どやりすつる中に、亡き人の、手ならひ、繪かき
  すさびたる見出でたるこそ、たゞその折の心地すれ。此の比ある人の文だに、
  久しくなりて、いかなるをり、いつの年なりけんと思ふは、あはれなるぞか
  し。手なれし具足なども、心もなくてかはらず久しき、いとかなし。
                            『徒然草』29段

  春暮れて後、夏になり、夏はてて秋の來るにはあらず。春はやがて夏の氣を
  もよほし、夏より既に秋はかよひ、秋は則ち寒くなり、十月は小春の天氣、
  草も青くなり、梅もつぼみぬ。木の葉の落つるも、まづ落ちてめぐむには
  あらず、下よりきざしつはるに堪へずして、落つるなり。迎ふる氣、下に
  まうけたる故に、待ち取るついで、甚だ速し。生老病死の移り來る事、又
  是に過ぎたり。四季はなほ定まれるついであり。死期はついでを待たず。
  死は前よりしも來らず。かねて後に迫れり。人皆死ある事を知りて、待つ
  ことしかも急ならざるに、覺えずして來る。沖の干瀉遙なれども、磯より
  潮の滿つるが如し。
                            『徒然草』155段

  
14ajia.jpg                                         21.6.30 東京都清瀬市

【文例】 唱歌・童謡

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