2010年2月 1日

墨場必携:漢詩 漢文 梅花

      
20紅梅枝1.jpg                                             22.1.20 東京都清瀬市

  「摽有梅」 『詩経』(「国風召南」)

    摽有梅 
    其実七兮
    求我庶士
    迨其吉兮

    摽有梅
    其実三兮
    求我庶士
    迨其今兮

    摽有梅
    頃筺墍之
    求我庶士
    迨其謂之

   摽[お]ちて梅有り
   其の実七つ
   我を求むる庶士よ
   其の吉[よ]きに迨[およ]べ

   摽ちて梅有り
   其の実三つ
   我を求むる庶士よ
   其の今に迨べ

   摽ちて梅有り
   頃筺[けいきやう]もて之を墍[と]る
   我を求むる庶士よ
   其の之を謂ふに迨べ 

    摽:落ちる
    庶士:庶「(おお)くの士(おのこ)
    迨:及ぶ
    頃筺:竹かご
    墍:取る
    ※結婚をいそぐ娘が男たちに呼びかけるうた。



  「山園小梅[せうばい]」  宋 林逋(りん ぽ)

    衆芳揺落独喧妍
    占尽風情向小園
    疎影横斜水清浅
    暗香浮動月黄昏

   衆芳は揺落せしに独り喧妍[けんけん]たり
   風情[ふうじやう]を占め尽くして小園に向かふ
   疎影 横斜して水 清浅
   暗香 浮動して月 黄昏[くわうこん]

    月黄昏:月はけぶっている。おぼろ月。

 ◎林逋(967-1028)は諡(おくりな)の和靖(くわせい)の方が知られる北宋
  の隠遁詩人。浙江杭州の市外、西湖の孤山に住み、梅を妻とし、鶴を子として
  生涯独身を通した。

      
29梅木3.jpg                                               22.1.29 東京都清瀬市


 「初聞蛙」(初めて蛙を聞く) 北宋 梅堯臣(ばい ぎょうしん)

    朝開南籬梅
    暮聞北池蛙
    何時科斗生
    草根已吐牙

   朝[あした]に開く 南籬[なんり]の梅
   暮に聞く 北池[ほくち]の蛙
   何[いづ]れの時ぞ 科斗[くわと]の生れしは
   草根[さうこん] 已に牙[め]を吐く

   科斗:おたまじゃくし

 ◎梅堯臣(1002-1060)は官僚としては不遇であったが詩に刻苦精励した北宋の詩人。



 「梅花二首」(抜粋)  宋 蘇軾

      其一

    春来幽谷水潺潺
    的皪梅花草棘間
    一夜東風吹石裂
    半随飛雪度関山

   春来 幽谷 水 潺潺[せんせん]たり
   的皪[てきれき]たる梅花 草棘[さうきよく]の間
   一夜 東風 石を吹いて裂き
   半ば飛雪に随ひて関山を度[わた]る


 「正月二十日、往岐亭。郡人潘古郭三人、送余於女王城東禅荘院」
 (正月二十日、岐亭[きてい]に往く。郡の人潘[はん]・古[こ]・郭[くわく]の
  三人、余を女王城の東の禅荘院に送れり)

    数畝荒園留我住
    半瓶濁酒待君温
    去年今日関山道
    細雨梅花正断魂

   数畝「すうほ]の荒園は我を留めて住[ぢゆう]せしめ
   半瓶[はんぺい]の濁酒は君を待ちて温かし
   去年の今日 関山の道
   細雨 梅花 正に魂[こん]を断てり

 ◎蘇軾(1036-1101、号は東坡)は書にもすぐれた、宋詩第一の巨人。

       
22白梅枝3.jpg                                              22.1.22 東京都清瀬市

 「梅花絶句六首」(抜粋)  南宋 陸游

      其三

    聞道梅花坼暁風
    雪堆遍満四山中

   聞道[きくなら]く 梅花 暁風に坼[ひら]くと
   雪 堆[うづたか]く 四山の中[うち]に遍[あまね]く満つ

  ・第2句の「雪」は、散った白梅の花びらが積もった雪のようだという。

      其四

    小亭終日倚闌干
    樹樹梅花看到残
    只怪此翁常謝客
    元来不是怕春寒

  小亭 終日 闌干[らんかん]に倚[よ]り
  樹樹 梅花 残[ざん]するに到るを看る
  只だ怪しむ 此の翁 常に客を謝するも
  元来 是れ春寒を怕[おそ]るるならず

  ・第2句の「残」は散りしおれてしまうこと。

 ◎陸游(1125-1210、号は放翁)は詩一万首を作った、南宋を代表する愛国詩人。



 「雨久初晴(雨久しくして初めて晴る)」  明 袁宏道(えん こうどう)

    梅花吐冷魄
    竹子舒烟尾
    睎影落寒簷
    微微苔甲起

   梅花 冷魄[れいはく]を吐き
   竹子[ちくし]烟尾[えんび]を舒[の]ばす
   睎影[きえい] 寒簷[かんえん]に落ち
   微微として苔甲[たいかふ]起こる

   冷魄:ひっそりとした清らかな花のさま。
   竹子:「子」は助字。
   烟尾:地上に現れた竹の頭のほのかな綿毛の形容であろう。
   睎影:朝日のかすかな光。
   苔甲:苔のうろこ状の葉。

 ◎袁宏道(1569-1610、字は中郎)は明末の文人。その詩は「清新軽俊」と評される。


 「三別好詩(さんべつかうのし)」(抜粋)  清 龔自珍(きょう じちん)

      其三

    忽作泠然水瑟鳴
    梅花四壁夢魂清

   忽ち作[おこ]る 泠然たる水瑟[すいしつ]の鳴[めい]
   梅花四壁 夢魂[むこん]清し

   泠然:清澄な水音の形容。
   水瑟:清流の音を瑟(大型の琴)にたとえたもの。

 ◎龔自珍(1792-1841、号は定盦)は清代中期の公羊(くよう)学者。
  「三別好詩」は格別愛好を寄せる三つの作品をテーマとした詩の意。
  「其の三」は宋大樽の文集『学古集』に題したもの。

     
23白黒散歩.jpg       オ散歩ニ 来マシタ

【文例】 和歌

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