墨場必携:訳詩 近現代詩 コスモス
20.10.3 埼玉県所沢市
「十月の顔」 北原白秋『邪宗門』所収
顔なほ赤し......うち曇り黄ばめる夕[ゆふべ]、
『十月[じふぐわつ]』は熱を病[や]みしか、疲れしか、
濁れる河岸[かし]の磨硝子[すりがらす]脊に凭りかかり、
霧の中[うち]、入日[いりひ]のあとの河[かは]の面[も]を
ただうち眺む。
そことなき櫂[かい]のうれひの音[ね]の刻[きざ]み......
涙のしづく......頬にもまたゆるきなげきや......
ややありて麪包[パン]の破片[かけら]を手にも取り、
さは冷やかに噛みしめて、来[きた]るべき日の
味もなき悲しきゆめをおもふとき......
なほもまた廉[やす]き石油の香[か]に噎[むせ]び、
腐れちらぼふ骸炭[コオクス]に足も汚ごれて、
小蒸汽[こじやうき]の灰[はひ]ばみ過ぎし船腹[ふなばら]に
一きは赤く輝やきしかの窻枠[まどわく]を忍ぶとき......
月光[つきかげ]ははやもさめざめ......涙さめざめ......
十月[じふぐわつ]の暮れし片頬[かたほ]を
ほのかにもうつしいだしぬ。
22.9.22 埼玉県所沢市
「垣根の外」 野口雨情
秋晴れの
垣根に咲いた
コスモスよ
人なつかしい 桃色の
淡いこころの
コスモスよ
若い女が しよんぼりと
垣根の外で
唄つてる
恋は悲し
コスモスの花よと
唄つてる
22.10.6 埼玉県所沢市
「洪水の跡」 野口雨情『雨情民謡百篇』所収
洪水の跡に
コスモス咲き
赤い蜻蛉[とんぼ]が
とまつてゐる
赤い蜻蛉よ
旅人は
どこまで行つた
22.10.23 東京都清瀬市
「おけらの唄」より抜粋 野口雨情
まぼろし草も
コスモスも
花は昔の
ままで咲く
20.10.6 埼玉県所沢市
【文例】 唱歌・童謡