墨場必携:訳詩 近現代詩 蝉 向日葵 夏木立
22.8.2 東京都清瀬市
「かなかな蝉」 野口雨情『別後』所収
初恋[はつごひ]でせう 背戸山で
かなかな蝉が
鳴いてます
別れて遠き君ゆゑに
「別れました」と
言ひました
初恋でせう 背戸山で
かなかな蝉が
鳴いてます。
「思ひ出」(その二十六) 北原白秋『思ひ出 抒情小曲集』所収
二十六
蝉も鳴く、ひと日ひねもす、
「かなし、かなし、ああかなし、今日[けふ]なほひとり。」
22.8.1 東京都清瀬市
「驟雨前」より6聯のうち第5聯 北原白秋『邪宗門』所収
生騒[なまさや]ぎ野をひとわたり。
とある枝[え]に蝉は寝おびれ、
ぢと嘆き、鳴きも落つれば
洞[ほら]円[まろ]き橋台[はしだい]のをち、
はつかにも断[き]れし雲間に
月黄ばみ、病める笑ひす。
「夏の夜に覚めてみた夢」 石川啄木『在りし日の歌』所収
眠らうとして目をば閉ぢると
真ッ暗なグランドの上に
その日昼みた野球のナインの
ユニホームばかりほのかに白く----
ナインは各々守備位置にあり
狡[ずる]さうなピッチャは相も変らず
お調子者のセカンドは
相も変らぬお調子ぶりの
扨[さて]、待つてゐるヒットは出なく
やれやれと思つてゐると
ナインも打者も悉[ことごと]く消え
人ッ子一人ゐはしないグランドは
忽[たちま]ち暑い真昼のグランド
グランド繞[めぐ]るポプラ並木は
蒼々として葉をひるがへし
ひときはつづく蝉しぐれ
やれやれと思つてゐるうち......眠[ね]た
22.7.30 東京都清瀬市
「夏の日の歌」 中原中也『山羊の歌』所収
青い空は動かない、
雲片[ぎれ]一つあるでない。
夏の真昼の静かには
タールの光も清くなる。
夏の空には何かがある、
いぢらしく思はせる何かがある、
焦げて図太い向日葵[ひまはり]が
田舎の駅には咲いてゐる。
上手に子供を育てゆく、
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
山の近くを走る時。
山の近くを走りながら、
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
夏の真昼の暑い時。
22.8.1 東京都清瀬市
「園中」 与謝野晶子
蓼[たで]枯れて茎猶[なほ]紅[あか]し、
竹さへも秋に黄ばみぬ。
園[その]の路[みち]草に隠れて、
草の露昼も乾かず。
咲き残るダリアの花の
泣く如く花粉をこぼす。
童部[わらはべ]よ、追ふことなかれ、
向日葵[ひまはり]の実を食[は]む小鳥。
がん子ちゃん
ラーメン屋さん「がんてつ」の近所に住んでいます。
家族の引っ越しにひとりだけ置いて行かれました。
アクシデントだったのか、置き去りだったのか。
御近所が不憫がって面倒を見てくれて、もう数年とのこと。
おっとりと人懐こいがん子ちゃんを見ると、今もそれなりに
幸せに暮らしているようです。