墨場必携:和歌 春の雪 早春
余寒、春の雪、梅 について、今回はすべて近世(江戸時代)の文例を御紹介しています。同じ題材で近世以外の文例は、第3回、第4回、第29回、第52回にも御紹介があります。御参照下さい。
22.2.14 東京都清瀬市
余寒
梅がえに春と鳴きつる鶯の
ゆくへも知らず雪はふりつつ
「桂園一枝」香川景樹
二月余寒
花をだに今は待つべき頃なるを
またさえかへり雪のふるらん
「亮々遺稿」木下幸文
二月余寒
ともすれば花にまがひてちる雪に
梅が香寒き如月の空
「六帖詠草」小澤蘆庵
22.2.4 東京都清瀬市
いたく寒き夜
春寒みなほきさらぎのあつぶすま
かさねてよもの嵐をぞきく
「六帖詠草」小澤蘆庵
余寒月
更けゆけば猶[なほ]かげ寒し春の月
かすむとみしや雪げなりけん
「六帖詠草」小澤蘆庵
22.2.4 東京都清瀬市
余寒雪
み山べは春の景色もなかりけり
ささの葉さやぎ み雪ふりつつ
「亮々遺稿」木下幸文
22.2.13 箱根
朝雪
山かげのねぐらを出づる朝鳥の
はぶきにこぼす木々のしら雪
「六帖詠草」小澤蘆庵
雪のふりたるあした山里にて
花ならで花なるものは朝日かげ
にほへる山の木々のしら雪
「六帖詠草」小澤蘆庵
22.2.4 東京都清瀬市
雪の降りたる夕べ
降りつもる雪はうすゆき
松竹もわかるるほどの夕暮れの色
「六帖詠草」小澤蘆庵
うづもれぬ道の光はしら雪の
ふりても残る跡にこそ知れ
「六帖詠草」小澤蘆庵
鳥翅拂雪
花と見しゆふの林の雪ちらす
鳥のはぶきや春の山風
「六帖詠草」小澤蘆庵
メジロ 22.2.5 東京都清瀬市
春雪
見るがうちにはかなく消ゆる沫雪は
もゆるはる野にふればなりけり
「琴後集」村田春海
春雪
山里の梅のほつえに降る雪の
たまらぬ春になりにけるかな
「桂園一枝」香川景樹
残雪
忘れては花かとぞ思ふ
山の端に春も日を経[へ]てのこるしら雪
「琴後集」村田春海
残雪
かげろふのもゆる春日[はるひ]に残りけり
消えぬばかりの嶺のしら雪
「桂園一枝」香川景樹
22.2.11 東京都清瀬市
梅
雪わけて昔の友をとひくれば
吉野の里に梅も咲きけり
「藤簍冊子」上田秋成
梅
日のめぐる南の枝の霜どけに
ぬれてほほゑむ梅の初花
見し夢はあとなき花の下ぶしに
梅が香深きかたしきの袖
「六帖詠草」小澤蘆庵
野梅
さしてゆくかたもなけれど
香にめでて梅さく野辺は遠く来にけり
「六帖詠草」小澤蘆庵
里梅
うめが香に夢のなごりやとどむらむ
ねざめの里の春の曙
「琴後集」村田春海
夕梅といふことを
花の色はたそがれ時の垣根道
行き過ぎがてに匂ふ梅が香
「六帖詠草」小澤蘆庵
22.2.6 東京都清瀬市
雪中梅
ねたしとて花をば雪のかこふとも
いかがはすべきにほふ梅が香
「六帖詠草」小澤蘆庵
雪中梅
鶯の木づたひこぼす雪まより
あらはれそむる梅の花かな
「亮々遺稿」木下幸文
22.2.4 東京都清瀬市
冬の梅
来ぬ春にあらぬものから
待つほどを梅は心に任せてぞ咲く
「藤簍冊子」上田秋成
春をいそぐ心さへこそうかれけめ
花笠ぬひて梅くるひいづ
「志濃夫廼舎家集」橘曙覧
メジロ 22.2.5 東京都清瀬市
毎年愛梅
岡の辺に家居[いへゐ]せしより
梅の花折[を]りてかざさぬ春なかりけり
「桂園一枝」香川景樹
満月上梅花
いかなればにほへる梅の花の上に
いでたる月のかすまざるらむ
「桂園一枝」香川景樹
22.2.4 東京都清瀬市
方清をいざなひて近わたりあるくとて
いづかたとかたはさだめず梅の花
にほはんかたに遊びてはこむ
「亮々遺稿」木下幸文
22.2.6 東京都清瀬市
オ散歩ニ 来マシタ
三キョウダイ デ 川縁ニ 住ンデマス
【文例】 近現代詩