墨場必携:和歌 梅雨
梅雨留客
我が宿に雨つゝみせよ
さみだれのふりにしことも語りつくさむ
橘千蔭『うけらが花』二
(どのみち外に出られないなら、私の家でずっといらっしゃい。梅雨の雨の
降るなか、もう古くなってしまった昔話も何も、積もる話を語りつくそう)
※雨つゝみ:もとは雨を憚って屋内に籠もること。外出しない の意味になるので、
この歌では少しひねって来客を引き留める言葉に用いている。
※さみだれ:陰暦五月の長雨。陰暦五月は現在の六月第一週頃から。
陰暦五月の長雨は梅雨。
※ふりにしこと:「ふり」は「降り」と「旧り」の掛詞。「ふりにしこと」は遠い昔に
なってしまったこと、古い話。思い出。
21.6.14 東京都清瀬市
宮人の夏のよそひの二藍[ふたあゐ]に
かよふもすゞしあぢさゐの花
村田春海『琴後集』二
(宮人の夏の装束の色二藍に、似た色で咲いているのも、すっきりと美しい
紫陽花の花よ)
※二藍:藍と紅花と二種類の植物染料を用いた染色。青系の藍染を「青藍」、
赤系の紅花染を「赤藍」と呼んだことから、この二つを重ねて出来る
紫系統の色を「二藍」とした。
藍と紅花とのバランスによって、青紫から赤紫まで、実際には幅広い
色相に渡って用いた呼称。
主に夏服の色。平安時代では習慣的に若い人は赤紫寄りを着用し、年を
とるにつれて青系の強い色を着たらしい。
咲きそめてふりそめにけり
さみだれにゆかりや深きあぢさゐの花
阪正臣『三拙集』
(花が咲き始めると梅雨の雨は降り出したのであった。そもそも梅雨にゆかりが
深いのだろうか、紫陽花の花は)
ひと花はつちにまみれぬ
さみだれのふるやのにはにさけるあぢさゐ
阪正臣『三拙集』
(地面に近い一つの花房は土にまみれてしまった。梅雨の雨の降る、陋屋の
庭に咲いている紫陽花の花よ)
※さみだれのふるやのには:「ふる」は五月雨が「降る」と「古」屋 との掛詞。
五月雨[さみだれ]
降りそむるけふだに人のとひ来なむ
久しかるべきさみだれの雨
香川景樹『桂園一枝』雪
(せめて降り始めた今日のうちだけでも、人が訪ねて来てもらいたい。
これから長く続くであろう梅雨の雨のことだから。)
※人:特定の人物、恋人などを指すとしても読めるが、作者が男性なので、
ここでは採らない。
※なむ:文末に付いて願望(誰それに......シテモライタイ)を表す終助詞。
20.6.30 埼玉県所沢市
瓶に挿す白と紅[あか]とのばらの花
あひよりてあるに白もよく紅もよき
木下利玄『李青集』
我が宿に雨つゝみせよ
さみだれのふりにしことも語りつくさむ
橘千蔭『うけらが花』二
(どのみち外に出られないなら、私の家でずっといらっしゃい。梅雨の雨の
降るなか、もう古くなってしまった昔話も何も、積もる話を語りつくそう)
※雨つゝみ:もとは雨を憚って屋内に籠もること。外出しない の意味になるので、
この歌では少しひねって来客を引き留める言葉に用いている。
※さみだれ:陰暦五月の長雨。陰暦五月は現在の六月第一週頃から。
陰暦五月の長雨は梅雨。
※ふりにしこと:「ふり」は「降り」と「旧り」の掛詞。「ふりにしこと」は遠い昔に
なってしまったこと、古い話。思い出。
21.6.14 東京都清瀬市
宮人の夏のよそひの二藍[ふたあゐ]に
かよふもすゞしあぢさゐの花
村田春海『琴後集』二
(宮人の夏の装束の色二藍に、似た色で咲いているのも、すっきりと美しい
紫陽花の花よ)
※二藍:藍と紅花と二種類の植物染料を用いた染色。青系の藍染を「青藍」、
赤系の紅花染を「赤藍」と呼んだことから、この二つを重ねて出来る
紫系統の色を「二藍」とした。
藍と紅花とのバランスによって、青紫から赤紫まで、実際には幅広い
色相に渡って用いた呼称。
主に夏服の色。平安時代では習慣的に若い人は赤紫寄りを着用し、年を
とるにつれて青系の強い色を着たらしい。
咲きそめてふりそめにけり
さみだれにゆかりや深きあぢさゐの花
阪正臣『三拙集』
(花が咲き始めると梅雨の雨は降り出したのであった。そもそも梅雨にゆかりが
深いのだろうか、紫陽花の花は)
ひと花はつちにまみれぬ
さみだれのふるやのにはにさけるあぢさゐ
阪正臣『三拙集』
(地面に近い一つの花房は土にまみれてしまった。梅雨の雨の降る、陋屋の
庭に咲いている紫陽花の花よ)
※さみだれのふるやのには:「ふる」は五月雨が「降る」と「古」屋 との掛詞。
五月雨[さみだれ]
降りそむるけふだに人のとひ来なむ
久しかるべきさみだれの雨
香川景樹『桂園一枝』雪
(せめて降り始めた今日のうちだけでも、人が訪ねて来てもらいたい。
これから長く続くであろう梅雨の雨のことだから。)
※人:特定の人物、恋人などを指すとしても読めるが、作者が男性なので、
ここでは採らない。
※なむ:文末に付いて願望(誰それに......シテモライタイ)を表す終助詞。
20.6.30 埼玉県所沢市
瓶に挿す白と紅[あか]とのばらの花
あひよりてあるに白もよく紅もよき
木下利玄『李青集』
【文例】 訳詩・近現代詩へ