第29回 光の春:啓蟄、春一番、春雷、梅、紅梅、鶯 春の野
第29回 光の春:啓蟄、春一番、春雷、梅、紅梅、鶯 春の野
1 光の春
2月23日昼過ぎに突然吹き出した強風は、夕方から夜に掛けて日本列島の広い範囲に渡って吹き荒れました。
このあたりでも突風の時には轟音がし、地響
きがし、この天変地異はやや離れたどこかで大地震でも起きたかと疑うほどでした。視界が土気色の泥風で覆われて、ひどい時は小さな庭を隔てたお隣の家も見えないありさまでした。ものを倒壊させ、交通事故を多発させ、飛行機や鉄道多線を運休させて、その後二日にわたる大混乱をもたらしました。
立春から春分にかけての丁度この時期、初めて吹く強い南風を春一番と呼び習わしています。もとは五島列島沖に出漁した壱岐地方の漁師言葉であったとい
われますが、現在は気象用語として天気予報などでもお馴染みの言葉になり、季節の進行を教えてくれる例年の目印となっています。先月23日の風も気象庁は
春一番と発表しましたが、そう呼ぶには激しすぎるものでしたね。
同じように、立春を過ぎて初めて鳴る雷を初雷(はつらい)といいます。早春は雷がよく鳴り、春雷は俳句の世界では春の季語です。
春一番が吹くと、そのあとは西高東低の気圧配置になるために、北風が吹き、気温が下がり、陽気は一時的にまた冬型に戻ります。ちなみに春一番の次に吹く強い南風は春二番、その次は春三番です。三寒四温を繰り返して春本番に近づいて行きます。
二十四節気ではこの3月5日が啓蟄(けいちつ)になります。冬ごもりしていた虫(蟄虫)が地中から這い出してくることを意味する節気です。文字通り、
この頃から冬の間休眠していた草木や動物が春の気配を感じて活動し始めます。先の大風には花盛りの梅も桜の蕾も、土の中から頭を出しかけていた小さな動物
達も、さぞかし驚いたことでしょうが、風が過ぎると、やはり空はもう一段と光を増しております。空には春が来ています。
「光の春」という言葉は、本来、立春は過ぎたものの動植物にはまだ春の兆しの見えないごく早い春にふさわしい表現です。けれども1、2月に雪が多く、 厳しい季節が続いた今期は、空の光に本当に温もりが感じられるようになったのはつい最近のことです。遅かった梅がいきなり押し寄せてくるように今は満開と なり、春の花々が次の支度を急ぎ始めました。
早春の季節を眺めれば、そこには目を覚ますもの、芽吹くもの、巣立つもの、これから始まるものごとに胸をふくらませるものが満ちています。人間世界で も学校は卒業と入学の時期、別れと出会いの季節でもあります。欧米に合わせて9月新学期制に移行した方が留学の便などにも好都合だという説がありますが、 自然界が始動する清新な空気と重なる日本の卒業入学は、これなりに気分の上ではよいものです。
このたびは、さまざま早春の風物を探してお届けします。