墨場必携:漢詩 梅雨詩二題
26.6.16 東京都清瀬市
「梅雨」 唐 杜甫
南京犀浦道
四月熟黄梅
湛湛長江去
冥冥細雨來
茅茨疎易濕
雲霧密難開
竟日蛟龍喜
盤渦與岸回
南京(なんけい)犀浦(さいほ)の道
四月 黄梅(こうばい)熟す
湛湛(たんたん)として長江(ちやうかう)去り
冥冥(めいめい)として細雨(さいう)来たる
茅茨(ばうし)は疎にして湿(うるほ)ひ易く
雲霧は密にして開け難し
竟日(きやうじつ)蛟龍(かうりゆう)喜び
盤渦(ばんくわ)岸と回(めぐ)る
26.5.30 東京都清瀬市
南京犀浦:南京は成都。犀浦は県名。杜甫の草堂があった。
四月:陰暦四月。現行暦の五月初旬からのひと月。
竟日:一日中。終日。
蛟龍:蛟と龍。
蛟は龍の一種で「みづち」とされるもの。四つ足が
あり、大水を起こすという。
26.5.30 東京都清瀬市
南京(=成都)犀浦県にある草庵の道は、
陰暦四月になって、梅の実は黄色に熟する。
その頃に、長江は水を満々と湛えて流れ行き、
あたりを暗くして、梅雨の細かな雨が降ってくる。
草庵の茅葺きの屋根はまばらに葺いてあって、雨が滲みやすく、
雲や霧は深くたれこめて、なかなか晴れることがない。
この雨空、一日中を蛟龍は喜び、
水面の渦は岸の形に沿って回っている。
26.6.10 東京都清瀬市
「約客」 宋 趙師秀
黄梅時節家家雨
靑草池塘處處蛙
有約不來過夜半
閑敲碁子落燈花
26.6.21 東京都清瀬市
黄梅(こうばい)の時節 家家の雨
青草の池塘(ちたう) 処処の蛙(かはづ)
約有れども来たらず 夜半(やはん)を過ぐ
閑(しづ)かに碁子(きし)を敲(う)てば 灯花落つ
碁子:碁石。
燈花:燈芯の燃えきった所。
26.6.16 東京都清瀬市
梅雨の時節はどの家も雨に降り籠められる。
青草の繁る池の堤ではあちこちで蛙が鳴いている。
来訪の約束があったのだが 来ないまま夜半が過ぎた。
閑寂の中、碁石をパチンと置くと、燈芯が燃え落ちた。
26.6.16 東京都清瀬市