墨場必携:漢詩 初春雨中作
24.2.12 東京都清瀬市
「初春雨中作」 廣瀬淡窗
鳥未遷喬花未開
牆陰殘雪尚成堆
誰知東帝回春處
却自空濛蕭瑟來
鳥は未(いま)だ喬(たか)きに遷(うつ)らず
花は未(いま)だ開かず
牆陰(しやういん)の残雪 尚ほ堆(たい)を成す
誰か知らん 東帝回春の処(ところ)は
却つて空濛(くうまう)蕭瑟(せうしつ)より来たるを
遷喬:冬の間深い谷にひそんでいた鳥が谷より出て高い木に遷る。
「出自幽谷、遷于喬木」『詩経』小雅
花:ここでは春の様々な花を総称していると解釈されるが、もちろん
桜と見ても通じる。
誰知:反語となって文意を強める。
ここでは、東帝が春を回らせてくるのがいかにも春を思わせる
明るい晴れやかな処からではなく、却ってぼんやりした温かい
雨のしめやかな気配の中からであることを強調する。
東帝:「東」は春の方位。東帝は春を司る神。東皇に同じ。
回春:季節がめぐって春になる。
空濛:霧雨に煙るさま。
蕭瑟:「蕭」はひっそりとものさびしいさま。
「瑟」は楽器名。大琴(おおごと)。その音色の気配から、
おごそかなさま、静かなさま、清らかなさま。
「蕭瑟」で、ものさびしいさま、ひっそりしめやかなさま。
24.2.12 東京都清瀬市
鳥はまだ喬い木に遷らず花もまだ咲かない
牆(かきね)の陰の残雪はまだ堆(うずたか)く積もったまま
東帝はけぶる霧雨のしめやかな気配の中から
春を回(めぐ)らせて来るのである
24.2.24 狭山湖