2013年1月 7日

墨場必携:漢詩 富士山


       
0101富士1784.jpg                                           25.1.1 東京都清瀬市


  富士山     石川丈山

     仙客來遊雲外巓
     神龍棲老洞中淵
     雪如紈素煙如柄
     白扇倒懸東海天

    仙客(せんきやく)来(きた)り遊ぶ雲外(うんがい)の巓(いただき)
    神龍(しんりゆう)棲(す)み老ゆ 洞中(どうちゆう)の淵(ふち)
    雪は紈素(がんそ)の如く 煙は柄の如し
    白扇 倒(さかし)まに懸く 東海の天

       
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                                         24.10.24 狭山湖より望む


  雲の外にある巓は仙人の来たり遊ぶ処、
  洞窟の中の深い淵は龍の棲処(すみか)。
  雪は紈素(しらぎぬ)のよう  煙は柄(え)のよう、
  東の海の空に白扇を逆さまに懸けたよう。

  ※煙:この場合は霧霞の類ではない。当時富士山は活火山である。

     
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                                           25.1.1 東京都清瀬市  


  富士山     柴野栗山

     誰將東海水
     濯出玉芙蓉
     蟠地三州盡
     插天八葉重
     雲霞蒸大麓
     日月避中峰
     獨立原無競
     自為衆嶽宗

   誰か東海の水を将(も)て、
   玉芙蓉を濯(あら)ひ出だせる。
   地に蟠(わだかま)つて三州尽き、
   天を挿して八葉重なる。
   雲霞(うんか)大麓(たいろく)を蒸し、
   日月(じつげつ)中峰(ちゆうほう)を避(さ)く。
   独立して原(もと)競ふ無く、
   自(をのづか)ら衆嶽の宗たり。

       
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                                           25.1.1 東京都清瀬市

  誰が東海の水で、あの美しい芙蓉のような峰を濯い出したのだろうか。
  地に蟠踞して三州を占め、天空に挿し出でては八葉の花弁を重ねたよう。
  雲や霞が宏大な麓から蒸し昇り、太陽も月も中央の峰を避けてめぐる。
  ただ独り高く立ち、もとより競うもの無く、自然と山々の主として仰がれる。

      
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   玉芙蓉:「玉」は美称、美しい。「芙蓉」は蓮の花。
       第四句「八葉」とあるのも蓮の花の花弁八葉(枚)のこと。
       富士山頂の形がその花の形に擬されることから来る表現。
   三州:駿河、甲斐、相模の三国。
   插天:天に山頂を挿し込んでいるという見方。
   
       
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                                           25.1.1 東京都清瀬市
   



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