墨場必携:漢詩 富士山
25.1.1 東京都清瀬市
富士山 石川丈山
仙客來遊雲外巓
神龍棲老洞中淵
雪如紈素煙如柄
白扇倒懸東海天
仙客(せんきやく)来(きた)り遊ぶ雲外(うんがい)の巓(いただき)
神龍(しんりゆう)棲(す)み老ゆ 洞中(どうちゆう)の淵(ふち)
雪は紈素(がんそ)の如く 煙は柄の如し
白扇 倒(さかし)まに懸く 東海の天
24.10.24 狭山湖より望む
雲の外にある巓は仙人の来たり遊ぶ処、
洞窟の中の深い淵は龍の棲処(すみか)。
雪は紈素(しらぎぬ)のよう 煙は柄(え)のよう、
東の海の空に白扇を逆さまに懸けたよう。
※煙:この場合は霧霞の類ではない。当時富士山は活火山である。
25.1.1 東京都清瀬市
富士山 柴野栗山
誰將東海水
濯出玉芙蓉
蟠地三州盡
插天八葉重
雲霞蒸大麓
日月避中峰
獨立原無競
自為衆嶽宗
誰か東海の水を将(も)て、
玉芙蓉を濯(あら)ひ出だせる。
地に蟠(わだかま)つて三州尽き、
天を挿して八葉重なる。
雲霞(うんか)大麓(たいろく)を蒸し、
日月(じつげつ)中峰(ちゆうほう)を避(さ)く。
独立して原(もと)競ふ無く、
自(をのづか)ら衆嶽の宗たり。
25.1.1 東京都清瀬市
誰が東海の水で、あの美しい芙蓉のような峰を濯い出したのだろうか。
地に蟠踞して三州を占め、天空に挿し出でては八葉の花弁を重ねたよう。
雲や霞が宏大な麓から蒸し昇り、太陽も月も中央の峰を避けてめぐる。
ただ独り高く立ち、もとより競うもの無く、自然と山々の主として仰がれる。
25.1.1 東京都清瀬市
玉芙蓉:「玉」は美称、美しい。「芙蓉」は蓮の花。
第四句「八葉」とあるのも蓮の花の花弁八葉(枚)のこと。
富士山頂の形がその花の形に擬されることから来る表現。
三州:駿河、甲斐、相模の三国。
插天:天に山頂を挿し込んでいるという見方。
25.1.1 東京都清瀬市