墨場必携:漢詩 初夏即事
23.5.8 東京都清瀬市
初夏即事 王安石
石梁茅屋有彎碕
流水濺濺度兩陂
晴日暖風生麥氣
綠陰幽草勝花時
石梁(せきりやう)茅屋(ぼうおく)彎碕(わんき)有り
流水濺濺(せんせん)として両陂(りやうひ)を度(わた)る
晴日(せいじつ)暖風(だんぷう)麦気(ばくき)を生じ
緑陰幽草(いうそう)花時(くわじ)に勝る
石の梁 茅葺きの家 彎曲した川の岸
流れる水はわらわらと両岸の間を通ってゆく
晴れた日の光と暖かい風の中に麦の香は立ち
緑の木陰人知れず繁る草むらは花咲く時節にも勝っている
23.5.14 東京都清瀬市
春日山荘、勒塘光行蒼(春日山荘、塘・光・行・蒼を勒す)
公主宇智子
寂寂雨荘山樹裏
仙輿一降一池塘
棲林孤鳥識春沢
隠澗寒花見日光
泉声近報初雷響
山色高晴暮雨行
従此更知恩顧渥
生涯何以答穹蒼
寂寂(せきせき)たる雨荘山樹(さんじゆ)の裏(うち)
仙輿(せんよ)一たび降(くだ)る、一池塘(ちたう)
林に棲む孤鳥は春沢(しゆんたく)を識り
澗(たに)に隠るる寒花は日光を見る
泉声近く報ず初雷(しよらい)の響
山色高く晴る暮雨(ぼう)の行(こう)
此(これ)従り更に知る恩顧の渥(あつ)きを
生涯何を以つてか穹蒼(きゆうそう)に答へん
ひっそりと静まりかえった森の山荘
その池のほとりに今帝の輿が降臨された
林に寂しく棲んでいる鳥は春の恵みをここに知り
谷間に密やかに咲く花は暖かい日の光に浴した
近くの滝の水音はさながら春雷の響きのように轟き
夕暮れの雨が上がって山は晴れ晴れと高くそびえている
この来駕によって君の御恩顧の篤いことを一層深く知った
生涯のうち、どのようにしてこの大空のような御恩に報いることができよう。
23.5.14 東京都清瀬市