墨場必携:漢詩 春雨到筆庵
24.3.6 東京都清瀬市
「春雨到筆庵(しゆんう ひつあんにいたる)」 廣瀬旭荘(ひろせきよくさう)
菘圃蔥畦取路斜
桃花多處是君家
晩來何者敲門至
雨與詩人與落花
菘圃(しゆうほ)葱畦(そうけい)
路(みち)を取ること斜(ななめ)に
桃花多き処是(こ)れ君が家
晩来(ばんらい)何者ぞ門を敲(たた)き至るは
雨と詩人と落花となり
筆庵:この時の訪問先。第二句にある「君家」を指すと思われるが未詳。
菘圃:菘(とうな)の圃(たはけ)。
菘(とうな)は唐菜、冬菜、またインゲンナとも呼ばれる野菜。
葱畦:葱(ねぎ)の畦(うね)、ネギ畑。
取路斜:斜めに辿る路。
「菘圃蔥畦取路斜」は菘圃葱畦の中の斜めに行く路
晩来:夕暮れ時。
雨與詩人與落花:この時に「門を敲(たた)き至る」ものを挙げている。
春雨が降り、桃の花が散る中を詩人が訪問したのであろうから、
「君家」に「至」っているのは三者すべてといえるが、敢えて
その内の誰が客かと尋ねる趣きの詩と見て、訳詩は意を鮮明にする
めに、助詞を「と」ではなく「か」に替えた。
ちなみに「門を敲(たた)き至る」のはもちろん詩人、作者自身である。
蛇足ながら、「敲(たたく)」は音を伴う動作。春雨は静かに降るもの、
花の散るのにも音は無い。
24.3.6 東京都清瀬市
菘(とうな)の圃(たはけ)、葱(ねぎ)の畦(うね)の中の
斜めに行く路
桃の花がいっぱいに咲いている処(ところ)が君の家
夕暮れ時に門を敲いて訪ねてくるのは誰
雨か詩人か散る花のどれか
24.3.8 東京都清瀬市