2011年10月12日

墨場必携:漢詩 秋雲篇示同舎郎

   
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   秋雲篇示同舎郎
   (しううんへん、どうしやのらうにしめす)     小野篁

     氣憀慄
     具品秋
     客在西
     歳欲遒
     登山臨水耶楚望
     移目寒雲遠近愁
     初觸拳石一片起
     盲風吹獵九圍浮
     陰連潘岳晉閣上
     色映劉王汾水流
     籠山暗濕長年葉
     帶日高韜短晷暉
     紫府欲迎仙駕養
     靑天曾助鵬翼飛
     朝爲巫嶺神姫氣
     夜作銀河織女衣
     富貴人間如不義
     華封勸我帝鄕意

      気は憀慄(れうりつ)
      具品(ぐひん)の秋
      客(たびびと)は西に在(あ)り
      歳(とし)遒(い)なんとす
      山に登り水に臨み 耶楚(やそ)を望む
      目を移せば寒雲(かんうん)遠近(えんきん)に愁ふ
      初めて拳石(けんせき)に触れ 一片(いつぺん)起こり
      盲風(まうふう)吹き猟(す)ぎ 九囲(きうゐ)に浮かぶ
      陰(かげ)は連なる 潘岳(はんがく)が晋閣(しんかく)の上
      色は映ゆ 劉王(りうわう)が汾水(ふんすい)の流れ
      山を籠めて暗く湿ほす 長年(ちやうねん)の葉(このは)
      日を帯びて高く韜(つつ)む 短晷(たんき)の暉(ひかり)
      紫府(しふ) 仙駕(せんが)を迎へて養はんとし
      青天(せいてん) 曾(かつ)て鵬翼(ほうよく)を助けて飛ぶ
      朝(あした)に 爲巫嶺(ふれい)神姫(しんき)が気に為り
      夜(ゆふべ)に 銀河織女(しよくぢよ)が衣(ころも)に作(な)る
      富貴(ふうき)は人間(じんかん)にして不義(ふぎ)の如し
      華封(くわほう)我に勧む 帝郷(ていきやう)の意(こころ)を

    
1009蕎麦8779.jpg                                            23.10.9 埼玉県三芳市

    ※「秋雲」は唐詩の主題によく詠まれる。
    ※「篇」は雑言体の詩を言うことが多い。この詩は七言の中に三言が四句
      混じった雑言体をとる。
    ※「示同舎郎」は、詩を作って同じ役所の官人に見せたということ。
    ※雲に関する故事を豊富に取り込んだ作である。

      憀慄:ぞっとすること。
      初觸拳石一片起:「初」は〜しただけで、〜するとたちまち。
         雲は石に触れると発生するとする考え。
      九囲:古代中国で全土を九つに分けて理解したことから、
         あまねく広くの意。
      潘岳:晋の人。ここではその作の「秋興賦」の内容を踏まえている。
      劉王:漢の武帝。ここではその作の「秋風辞」の内容を踏まえている。
      汾水:黄河の支流。山西省を南北に流れる。
      短晷:「晷」は陽光。秋の短い日のこと。
      紫府:天上の天帝の住まい
      富貴人間如不義:『論語』述而篇「不義にして富み且つ貴きは
         我に於いて浮雲の如し」を踏まえる。
      華封勸我帝鄕意:『荘子』天地篇。華の地域の封人(国境警備人)が帝尭
         に「千載世を厭へば去りて上僊し、彼の白雲に乗りて帝郷に至る」
         と語った話を踏まえる。

    
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                                            23.10.10 東京都清瀬市

       戦慄するばかりの秋の気
       ものみなそなわる秋よ
       旅人は西方の旅路に在るまま
       この年も暮れようとする
       山に登り水辺に臨んで 遠く故郷の楚の国を眺めやり
       目を移せばすっきりと寒い秋の雲が 空の遠くに近くに愁わしげに漂う
       雲は拳ほどの石に触れた途端ひとひら沸き起こり
       疾風が吹き過ぎると空一面に広がる
       雲の陰影は晋の人潘岳が詩に歌う楼閣に連なり
       雲の色は漢の武帝が詩に歌う汾水の流れに通じる
       山に立ちこめる雲は淮南王の老年を嘆かせた落葉を湿らせ
       日を帯びた雲は秋の短か日の光を空高くつつむ
       天帝の住む天上の宮殿では
             仙人の乗り物の中の人を迎えて豊かに養おうとし
       晴れた青雲の空ではかつて
                  大きな翼を助けて大鵬は飛んだのだ
       朝の雲は巫山の神女の醸す気となり
       夜の雲は銀河の織女のまとう衣となる
       富貴を求めることはこの世において義に背き
                  大空の浮雲のようにはかないもの
       華という地の封人(さきもり)は
          白い雲に乗って天帝のいます理想郷に行った理由を告げて
                私にもそれを勧めてくれた
                          私も雲に乗りたい      

    
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