墨場必携:漢詩 詠月
22.11.10 東京都清瀬市
詠月(月を詠ず) 文武天皇
月舟移霧渚
楓楫泛霞濱
臺上澄流耀
酒中沈去輪
水下斜陰碎
樹落秋光新
獨以星間鏡
還浮雲漢津
月舟(げつしう)霧渚(むしよ)に移り
楓楫(ふうしふ)霞浜(かひん)に泛(うか)ぶ
臺上(だいじやう)流耀(りうえう)澄み
酒中 去輪(きよりん)沈む
水下(くだ)り 斜陰(しやいん)砕け
樹(き)落ち 秋光(しゆうくわう)新たなり
独(ひと)り星間(せいかん)の鏡を以て
還(ま)た雲漢(うんかん)の津(しん)に浮かぶ
月舟:月を舟に見立てた表現。
楓楫:楓の楫をつけた舟。楓は香木。
霧渚:霧にかすんだ渚。
霞浜:かすんだ浜。
「霞」は春の景物。ここでは靄(もや)にかすむ大気のさま。
斜陰:月光に照らされて水に斜めに映る舟の影。
ここでは大空を水面に見立ててそのように表現する。
星間鏡:月のこと。星々の間の鏡に喩えた。
雲漢:天の川。銀河。
23.10.2 埼玉県日高市巾着田
月の舟は 霧のたちこめる渚を移りゆき
楓の楫(かじ)持つその舟は もやにかすむ浜に浮かんでいる
臺(うてな)の上には流れる月の耀(ひかり)が澄みわたり
酒杯の中には移り去る月輪が沈んでいる
天上 川水が流れるにつれ 斜めの陰は砕け
木々は葉を落として 秋の光は新鮮である
月はひとり星々の間の鏡となって
天の川の渡し場に浮かんでいる
23.10.2 東京都清瀬市