2011年1月 1日

墨場必携:漢詩 正月

       
31水辺.jpg                          22.12.31 東京都清瀬市

  正月 (唐)李賀(りが)

   上樓迎春新春歸
   暗黄著柳宮漏遅
   薄薄淡靄弄野姿
   寒綠幽風生短絲
   錦牀暁臥玉肌冷
   露瞼未開對朝瞑
   官街柳帯不堪折
   早晩菖蒲勝綰結

    樓(らう)に上(のぼ)りて春を迎ふれば 新春は歸(かへ)る。
    暗黄(あんくわう)柳に著(つ)き 宮漏(きゆうろう)遅し。
    薄薄(はくはく)淡靄(たんあい)野を弄する姿。
    寒綠(かんりよく)幽風(いうふう)短絲(たんし)生ず
    錦牀(きんしやう)暁に臥す玉肌(ぎよつき)冷やか
    露瞼(ろけん)未だ開かず朝(あした)に對して瞑(と)ず
    官街(くわんがい)の柳帯(りうたい)折るに堪へず
    早晩(いつ)か菖蒲(しやうぶ)綰結(くわんけつ)に勝(た)へんや

    高殿にのぼって春を迎えると、新しい春は帰ってきた
    鶯色の新芽が柳の枝の先につき、時の流れはゆるやかだ
    うっすら、うっすらとかかった淡い靄(もや)が野に戯れる姿
    ひんやりした緑が微かな風にそよぎ
                  糸のようにあえかな短い草が芽生える
    きらびやかな寝台の上、暁に横たわる玉の肌は冷たく
    露に濡れた瞼はまだ開かず、朝の訪れに閉ざされたまま
    都大路のしなやかな柳は細ぼそとして折るにしのびない
    いつの日か菖蒲の葉が結び合わせも出来るほどになるのだろうか


      
20100206.jpg                           22.2.6 東京都清瀬市

  歳月 (唐)元稹(げんしん)

   一日今年始
   一年前事空
   凄凉百年事
   応与一年同

    一日 今年始まる
    一年 前事は空し
    凄涼たり百年の事
    応(まさ)に一年と同じなるべし

    この日で今年も始まるが
    かえりみれば去年のことは空しく感じられる
    百年を重ねてもこのさびしさは変わるまい
    この一年も同じことに違いない

       
28鴨翼.jpg                          22.12.28 東京都清瀬市

  田家春望 (唐)高適(こうせき)

   門出何所見  
   春色満平蕪  
   可嘆無知己  
   高陽一酒徒

    門を出でて何の見る所ぞ
    春色 平蕪(へいぶ)に満つ
    嘆ず可し知己(ちき)無きを
    高陽の一酒徒

    城門を出て郊外に行ったものの見るものとて無く
    春の気配が平原に満ちているだけ
    嘆かわしいことは私という人物を理解してくれる者が無いことだ
    ここに天下に志を抱く飲み助がいるぞ

  井伏鱒二はこの詩を次のように訳した

   ウチヲデテミリャアテドモナイガ
   正月キブンガドコニモミエタ
   トコロガ会ヒタイヒトモナク
   アサガヤアタリデオホザケノンダ

       
ひた漢詩.jpg
  元日 (北宋)王安石

   爆竹声中一歳除
   春風送暖入屠蘇
   千門万戸瞳瞳日
   総把新桃換旧符

    爆竹声中 一歳除(つ)き
    春風は暖を送りて屠蘇(とそ)に入らしむ
    千門万戸 曈曈(とうとう)たる日
    総(すべ)て新桃(しんたう)を把(と)りて旧符に換ふ

    爆竹が鳴りひびくうちに旧年は尽き
    春風は暖気を送って屠蘇の盃もあたたかい
    すべての家に初日がかがやくこの日
    どの家も魔除けの新しい桃の木の符(ふだ)に取り換える

       
1127カワラヒワ.jpg                          22.11.27 東京都清瀬市

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