2011年4月14日

墨場必携:漢詩 「入山興」空海

    14桜木414.jpg                            23.4.14 東京都清瀬市  

   「入山興(山に入る興)」より抜粋
                    空海『性霊集 』所収
  
    君不見
    君不見
    京城御苑桃李紅
    灼灼芬芬顔色同
    一開雨
    一散風
    飄上飄下落園中
    春女群來一手折
    春鶯翔集啄飛空
    君不見
    君不見
    王城城裏神泉水
    一沸一流速相似
    前沸後流幾許千
    流之流之入深淵
    入深淵
    轉轉去
    何日何時更竭矣

      君見ずや
      君見ずや
      京城(けいじやう)の御苑(ぎよゑん)桃李(たうり)
                            紅(くれなゐ)にして
      灼灼(しやくしやく)芬芬(ふんぷん)として顔色同じきを
      一たび雨に開き
      一たび風に散る
      上に飄(ひるがへ)り下に飄りて園中に落つ
      春女群り来たりて一たび手(た)折(を)り
      春鶯(しゆんあう)翔り集ひ啄(ついば)んで空に飛ぶ

      君見ずや
      君見ずや
      王城(わうじやう)の城裏(じやうり) 神泉の水
      一たび沸(わ)き 一たび流れて速(すみ)やかなること相ひ似たり
      前に沸き 後(うし)ろに流れて幾許千(いくばくせん)ぞ
      流れ之(ゆ)き 流れ之きて深淵(しんゑん)に入る
      深淵に入り
      転転として去るも
      何(いづ)れの日 何れの時にか 更に竭(つ)きん

    14桜414.jpg                        大島桜 23.4.14 東京都清瀬市  

  ご覧なさい
  ご覧なさい
  京の都の御苑では桃や李が紅の花を咲かせ
  あでやかに薫り高く一つの色に咲き誇っている
  その花は 雨に会えば開き
  風に会えば散ってしまう
  上に舞い 下に舞っては園の中に散り落ちる
  春をめでる娘たちが群れをなしてやって来ては手折り
  春を喜ぶ鶯たちが飛び来ては花を啄んで空に飛ぶ

  (ここまでは、時間の流れに抗し得ない無常を、咲き誇る桃李の花の輝きが
   たちまちにして失われることを引き合いに詠んでいる)

  ご覧なさい
  ご覧なさい
  王城の城中にある神泉苑の水は
  沸き立ち流れ去る その速さは花の命にも似ている
  いくたび沸き立っては流れ去ること 数限りがない
  流れ行き流れ行っては深い淵に注ぐ
  深い淵に注ぎ
  次々と流れ去る水も
  それがいつとは分からないが いつかはすっかり尽き果てるだろう

  (流れる水に、変転してやまない万物のありようをなぞらえるのは古来ある比喩。
  『論語』子罕篇「川上の嘆」がそれである。
   ここはその流れを引く表現。神泉苑の水が流れ流れて、同じではないこと、無
   常をいう)

14椿落花.jpg                               23.4.14 東京都清瀬市

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