墨場必携:漢詩 月影満秋池
23.1.9 東京都清瀬市
月影満秋池[月影(げつえい) 秋池(しゆうち)に満つ]
菅原淳茂(すがわらのあつしげ)
碧浪金波三五初
秋風計會似空虚
自疑荷葉凝霜早
人道蘆花過雨餘
岸白還迷松上鶴
潭融可算藻中魚
瑤池便是尋常號
此夜淸明玉不如
碧浪(へきらう)金波(きんぱ)三五(さんご)の初(はじめ)
秋風(しうふう)計会(けいくわい)して空虚に似たり
自(みづか)ら疑ふ 荷葉(かえふ)凝霜(ぎやうさう)早きかと
人は道(い)ふ 蘆花(ろか)過雨(かう)に余れるかと
岸白くして 還(かへ)りて松上(しようじやう)の鶴に迷ひ
潭(ふち)融(とほ)りて
藻中(さうちゆう)の魚を算(かぞ)へつべし
瑤池(えうち)は便(すなは)ち是れ尋常(よのつね)の号(な)
此の夜の晴明 玉も如(しか)じ
三五:陰暦の十五日の日付を指す。そこから「三五夜」は十五夜、満月。
「三五」だけでもその意味で用いることが多い。
計会:「会計」に同じ。計算を合わせるようにものごとをはからうこと。
瑤池:仙女西王母が遊んだという伝説上の池。崑崙山にあるという。
(『穆天子伝』)
23.9.25 東京都清瀬市
池の面(おも)に碧の浪金の波がきらめく 十五夜のはじめ 夕暮れ時
秋風は計算を合わせるかのようにはからって 月の照り輝く池は虚空のようだ
月の光は白々と明るく 蓮の葉に早くも霜が置いたかと思われるほど
また 水辺の蘆の花が通り雨の後にまだ散り残っているのかと人が言うほど
池の岸は白く照り返って 池畔の松の上にいる鶴と見間違えるほど明るい
明るい月光の下 淵は澄み透って 水藻にひそむ魚の数も数えられるほど
瑤池がどれほど美しいと言っても ここに較べれば平凡な場所
清く明るい今宵の美しさには 宝玉さえも及ばない
22.11.16 東京都清瀬市