墨場必携:漢詩 晩秋舟行
24.11.18 東京都清瀬市
晩秋舟行(ばんしう しうかう)
市河寬齋
晴江秋淨碧涵天
夾岸霜楓燒晩煙
漁唱商歌都去盡
思詩人在夕陽船
晴江(せいかう)秋浄(きよ)く碧(へき)天を涵(ひた)す、
夾岸(けふがん)の霜楓(さうふう)晩煙(ばんえん)を焼く。
漁唱(ぎよしやう)商歌(しやうか)都(すべ)て去り尽くし、
詩を思ひて人は夕陽(せきよう)の船に在り。
24.11.18 東京都清瀬市
晴れ渡った川は秋の気配も清く、碧(あお)い水は天をも涵(ひた)すよう、
両岸の紅葉は夕暮れの煙(もや)に燃え立つようだ。
漁師や商人の歌声もみな消えつくし、
詩を作ろうとする人だけが夕陽を受ける船に残っている。
24.11.18 東京都清瀬市
碧(へき):舟の行く川の水の色。
霜楓(さうふう):古代は時雨や霜によって秋の紅葉は進むと考えられていた。
詩の表現はそれを踏襲するので、霜葉、霜楓は紅葉を表す。
霜で傷んだ楓のことではない。
漁唱商歌都去盡:舟行の合間に聞こえていた歌。
舟は目的地に着いて、歌ももう聞こえない。
思詩人在夕陽船:人はみな下舟したが、詩人だけがまだ舟に残って
詩作に夢中になっている。
もちろん作者自身のこと。
24.11.18 東京都清瀬市