2011年11月27日

墨場必携:漢詩 過秋山

      
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                              23.10.9 東京都国分寺市日立中央研究所庭園
 
  過秋山(秋山を過ぐ)   具平親王

    淸晨連轡伴樵歌
    漸上靑山逸興多
    松嶠煙深迷晩暮
    石梁霜滑倦嵯峨
    林間尋路踏紅葉
    巌畔側身攀綠蘿
    三叫寒猿傾耳聽
    一行斜雁拂頭過
    長安日近望難辨
    碧落雲晴何可磨
    莫道登臨疲跋渉
    人間嶮岨甚山河

      清晨(せいしん)轡(たづな)を連ね 樵歌(せうか)に伴はれ
      漸(やうや)く青山(せいざん)に上るに 逸興(いつきよう)多し
      松嶠(しようけう)煙(へぶり)深くして 晩暮(ばんぼ)に迷ひ
      石梁(せきりやう)霜滑らかにして 嵯峨を倦む    
      林間(りんかん)に路(みち)を尋ねて 紅葉(こうえふ)を踏み
      巌畔(がんぱん)に身を側(そば)めて 緑蘿(りよくら)を攀(よ)づ
      三叫(さんけう)の寒猿(かんゑん) 耳を傾(かたぶ)けて聴き
      一行(いつかう)の斜雁(しやがん) 頭(かうべ)を払ひて過ぐ
      長安(ちやうあん)日近くして 望(のぞみ)辨(わか)ち難く
      碧落(へきらく)雲晴れて 何ぞ磨(す)るべけんや
      道(い)ふこと莫かれ 登臨(とうりん)は跋渉(ばつせふ)より疲ると
      人間(じんかん)の嶮岨(けんそ)なること山河(さんか)より甚だし

    
1126ムクドリ4814.jpg                                         23.11.26 東京都清瀬市

      よく澄んだ朝、友と馬の手綱を連ね、
                    木樵(きこり)歌を歌う杣人に導かれて
      青い山に登ってゆくと 心はしきりにのびのびと解き放たれる
      松林の山道はもやに籠められ 夕暮れのような暗さに迷い
      岩に掛かる架け橋におく霜は 滑りやすくけわしさにうんざりする
      木立の中を 路を尋ねつつ散り敷く紅葉を踏み、
      崖縁の道に 身を縮めて緑の蔦や葛にすがりつく
      三たび叫ぶ猿の寒々とした声に耳を傾けて聴き入り
      斜めに列をなして飛ぶ雁は 頭上をかすめて去って行く
      日はすぐ近くに見えるが 都は遙か彼方にあって 眺望は難しい
      大空は雲が晴れて手も届きそうだが 触れるにはあまりにも高すぎる
      山に登って眺めに臨むのは山河を渡り歩くより疲れるなどとは言うまい
      人の世の険しいことは山河を行く比ではないのだ

    
1120.日立4328.jpg                              23.10.9 東京都国分寺市日立中央研究所庭園



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