2011年3月17日

墨場必携:漢詩 春興

    
16水辺316.jpg                                         23.3.16 東京都清瀬市
  

  春興   夏目漱石(明治31年3月)

   出門多所思   
   春風吹吾衣
   芳草生車轍
   癈道入霞微
   停筇而瞩目
   萬象帯晴暉
   聽黄鳥宛轉
   睹落英紛霏
   行盡平蕪遠
   題詩古寺扉
   孤愁高雲際
   大空斷鴻歸
   寸心何窈窕
   縹渺忘是非
   三十我欲老
   韶光猶依依
   逍遥隨物化
   悠然對芬菲

    門を出づれば 思ふ所多し   
    春風 吾が衣を吹く
    芳草(はうさう) 車轍(しやてつ)に生じ
    廃道(はいだう) 霞に入りて微(かす)かなり
    筇(つゑ)を停めて 目を瞩(そそ)げば
    万象 晴暉(せいき)を帯ぶ
    黄鳥(かうてう)の宛轉(ゑんてん)たるを聴き
    落英の紛霏(ふんぴ)たるを睹(み)る
    行き尽くして 平蕪(へいぶ)遠く
    詩を題す 古寺の扉
    孤愁 雲際に高く
    大空 斷鴻(だんかう)歸る
    寸心(すんしん) 何ぞ窈窕(えうてう)たる
    縹渺(へうべう)として 是非を忘る
    三十 我れ老いんと欲し
    韶光 猶ほ依依(いい)たり
    逍遥(せうえう) 物化(ぶつか)に隨(したが)ひ
    悠然として 芬菲(ふんぴ)に対す

    
13梅メジロ.jpg

    
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                                   梅にメジロ 23.3.13 東京都清瀬市

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