墨場必携:漢詩 賦雪
22.2.3 東京都東村山市
「賦雪(雪を賦す)」 『本朝無題詩』収録
釈蓮禅(藤原資基)
雪白雲黄年景闌
捲簾相望慰幽閑
暁留明月千程地
冬有衆花四遠山
孫氏寒窓如燭映
孟嘗昔浦似珠還
賞吟緣底更爲恨
彌黠鬢華一半斑
雪白く雲黄(き)にして 年景(ねんけい)闌(たけなは)なり
簾を捲きて相(あひ)望み 幽閑(いうかん)を慰む
暁(あかつき)に明月を留む千程(せんてい)の地(つち)
冬に衆花(しゆうくわ)有り 四遠(しゑん)の山
孫氏が寒窓(かんさう)燭(ともしび)の映ゆるが如く
孟嘗(まうしやう)が昔浦(せきほ)珠(たま)の還るに似たり
賞吟(しやうぎん)底(なに)に縁(よ)りてか更に恨みと為さん
弥点ず 鬢華(びんくわ)一半(いつぱん)の斑(はん)
雲黄:暗くたれ込める雲のさま。
雪の降る時の空に言われることが多い
孫氏:晋の孫康。貧しく燈の油を購うことができなかった孫康は
窓辺の雪明かりでなお勉学に励んだという。いわゆる「蛍雪の功」の
「窓の雪」の逸話「孫康映雪」(『蒙求』)。
孟嘗:後漢の合浦の長官。真珠の産出が少なくなってゆくのを案じ、善政に
よってもとの通りに珠を戻したという「孟嘗還珠」の故事がある
(『蒙求』)。
22.1.1 東京都清瀬市
白い雪黄色の暗い雲 年の暮れのわびしい景色は今がその最高潮
簾を巻き上げてかなたを見遣っては 深い侘びしさを慰める
雪は千里を離れた遠い地まで 暁に明るい月明かりを留め
雪はこの冬に四方の遠い山々にあまたの花と咲いている
孫康の寒々とした書読む窓辺に 燈(ともしび)の輝くような雪の明るさ
孟嘗のもとの入江に 再び還って来た白玉のような雪の白さよ
この雪を愛でて歌うことはどうして心に染まぬことがあろうか
しかし 私の髪にますます雪の白髪が加わって
半ばがまだらに白くなってゆくことは何とも
22.2.13 箱根