墨場必携:漢詩 春日靜坐 夏目漱石
25.2.24 東京都清瀬市
春日靜坐(しゆんじつ せいざ) 夏目漱石 明治三十一年三月
青春二三月
愁隋芳草長
閑花落空庭
素琴横虚堂
蠨蛸挂不動
篆烟繞竹梁
獨坐無隻語
方寸認微光
人間徒多事
此境孰可忘
曾得一日靜
正知百年忙
遐懐寄何處
緬邈白雲鄕
25.2.24 東京都清瀬市
青春(せいしゆん)二三月(にさんぐわつ)
愁ひは芳草(はうさう)に随(したが)ひて長し
閑花(かんくわ) 空庭(くうてい)に落ち
素琴(そきん) 虚堂(きよだう)に横たふ
蠨蛸(せうせう) 挂(か)かりて動かず
篆烟(てんえん) 竹梁(ちくりやう)を繞(めぐ)る
独坐(どくざ) 隻語(せきご)無く
方寸(はうすん) 微光を認む
人間(にんげん) 徒(いたづ)らに多事(たじ)
此(こ)の境(きやう) 孰(たれ)か忘るべけん
会(たまたま)一日の静(せい)を得て
正(まさ)に百年の忙(ばう)を知る
遐懐(かくわい) 何処(いづこ)にか寄せん
緬邈(めんばく)たり白雲の郷(きやう)
25.2.22 東京都清瀬市
青春:春。「青」は春を象徴する色。
閑花:しずかに咲く花
空庭:人影のない庭
素琴:飾りの施されていない琴
虚堂:人の気配のない室内
蠨蛸:あしたか蜘蛛
挂:「掛」と同字。ここでは蜘蛛が巣に留まっているさま
篆烟:篆書の線のように屈曲して立ちのぼる煙。「烟」は「煙」と同字。
竹梁:竹製の梁(はり)
隻語:わずかな言葉
方寸:心
遐懐:「遐」は「遠」と同義
緬邈:遙かさをいう語
25.2.17 東京都清瀬市