第71回 清風無限好:清雅の楽しみ
第71回【目次】
* 漢詩
* みやとひたち 残暑向日葵猫
24.8.25 東京都清瀬市
落落長松下
抱琴坐晩暉
清風無限好
吹入薜蘿衣
24.8.27 東京都清瀬市
落落たる長松(ちょうしょう)の下(もと)、
琴を抱きて 晩暉(ばんき)に坐す。
清風 無限に好(よ)く、
吹き入る 薜蘿(へいら)の衣(い)。
※( )内の読み方表記は現代仮名遣い
歴史的仮名遣い表記は漢詩(文例)のページで御覧下さい。
高く聳えた松の木の根方、
琴を抱き、夕暮れの残照を浴びて座っていると、
清らかな心地よい風は途絶えることなく、
目の粗い薜蘿の衣を吹き透しては入って来る。
24.8.21 東京都清瀬市
詩は田能村竹田(たのむらちくでん 1777〜1835)の五言絶句「遊山(やまにあそぶ)」です。
初句の「落落」は疎(まば)らなさまの形容から、空を透かして聳える高い木立のさまなどにも用いられます。ここではそのような高く聳える松の木(「長松」)です。
24.8.17 東京都清瀬市
第二句「琴を抱きて」とある部分は、「君子左琴(くんしさきん)」という成語で伝えられて来た君子のたしなみを思わせます。
左側には琴、というのは、右側にはもちろん書物があると想定した表現です。ただ学識ばかりによるのではなく、情操が豊かであることが、才に余裕のある理想的な教養人の姿でありましょう。書を読み、時に書を置いて琴を奏でるという日常が君子にふさわしいあり方であると考えられて来たのです。孔子も琴を弾くことを好み、自ら琴の曲を作曲したと伝わります。そもそも孔子に由来して、儒教の伝統にとりわけ琴という楽器は重んじられるようになったとも言えそうです(みやと探す・作品に書きたい史記の言葉 第69回 琴)。
24.8.16 東京都清瀬市
第三句「清風 無限に好し」は、今のような残暑の中で出会うと、何と気持ちよい言葉でしょう。
清らかな風は、途絶えることがなく、詠者の座る松の根方には涼しく清浄な気が漂います。
第四句の「薜蘿(へいら)の衣」とは質素な着物のことです。「薜」も「蘿」も蔓植物の一種です。その繊維で織った目の粗い布で仕立てた着物のことですが、転じて隠者の着物を言います。
静かな山の中、疎らに聳える高い松の根方、残照の中。琴を弾きさして座る薜蘿の衣の作者に心地よい風が絶え間なく吹いています。題は「遊山」。仙人の楽しみを思わせるような、清らかな夕暮れです。
24.8.17 東京都清瀬市