2011年3月17日

第11回 門を出づれば:深呼吸 そして復興に力を

第11回【目次】         
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    * 漢詩
    * みやとひたち





      
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   出門多所思   
   春風吹吾衣

    門を出づれば 思ふ所多し   
    春風 吾が衣を吹く

  詩は夏目漱石の五言古詩「春興」の冒頭です(文例のページに古詩全部を挙げてあります)。今回は予定を変更して、明治の人夏目漱石の詩を読みましょう。

  明治三十一年三月、漱石が第五高等学校(旧制五高、現熊本大学の前身)の英語教師であった時期に熊本で詠んだ詩です。この詩は、小説「草枕」の第十二章に、小説主人公の作として載ってもいますから、見覚えのある方もいらっしゃるでしょう。

  当時同僚の漢文教師に、漢詩人として令名のあった長尾雨山(1864〜1942)がいました。もともと漢籍に造詣の深かった漱石は、熊本時代、雨山に添削を受けるなどして、詩作に興じたようです。

      
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    門を出てみれば、さまざま心に思うことは多い。
    春の風は、無心に、ただ私の衣を吹き過ぎて行く。

      
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  三月、学校は卒業の時期、若い人びとの門出(かどで)の時を迎えましたが、この平成二十三年三月は日本の歴史に残る厳しい春になりました。

  目の前に見えるものが苦しく、辛いものばかりでも、そこに春は来て無心の風は流れてゆきます。

  学校の門を出て、世の中に出て行く人たちに、この世の中は一週間前の世の中より明らかに困難な苦しいものになりました。惨禍の傷は短期間に回復できるものではなく、日本国全体がかつてなかった危機に瀕しています。しかし、どんなときも、その時その時の最善を尽くして人間は生きてゆくものなのでしょう。鳥も草木も、みなそれぞれに淡々とその時の精一杯を生きています。若い人たちには困難な時代にも理想を忘れず、希望を持って門を出て貰いたいと願います。これからどれだけかかるか分からない復興の道のりに、やがて中心となって働くのは今門を出る若い人びとです。復興のために、みなで力を合わせ、心を寄せ合ってゆきましょう。日本の国はそうしてこれまでも甦(よみがえ)ってきたのです。

      
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