2011年12月 2日

第41回 十二月:月白き時

第41回【目次】         
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    * 漢詩
    * みやとひたち




    
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                                          23.12.9 東京都清瀬市

    歳晩天寒處
    風清月白時

    
      歳晩(さいばん)天寒き処(ところ)、
      風清く月白き時。

      
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   ※歳晩:歳の暮れ。歳末。
 
      
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  詩は五山の臨済僧中巌円月(ちゅうがんえんげつ、1300〜1375)の五言律詩「歳晩」から、冒頭の二句です。詩の全体は文例のページで御覧下さい。

      
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                                          23.12.9 東京都清瀬市

  八句からなる律詩を二句ずつに分けて、頭からそれぞれを首聯(しゅれん)、頷聯(がんれん)、頸聯(けいれん)、尾聯(びれん)と呼ぶのは一首の詩を龍の姿に見立てた呼び名です。

  四つの聯はおよそ起承転結の展開に作り、漢詩の慣習として、具体から入って抽象に及びます。あるいは、自然の描写から入り、人事に及びます。どちらにしても、首聯はまず大づかみに目の前の自然が率直に写されて詠まれる場所になるのです。

      
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                                          23.12.11 東京都清瀬市

  時は歳末。「天寒き」の「天」は天空というよりは大気、さらには気候という意味に近いかも知れません。すっかり寒くなりました。冷気を動かす風はあくまで清く、清らかな冷気に浮かぶ月はいかにも清潔な白い光を放っています。

      
1210月食6602.jpg                                 2011.12.10月蝕22時15分東京都清瀬市

  師走の空に浮かぶ白い月の風姿は、暮れゆく歳の、さまざま複雑に渦巻く凡俗の心のうちとはうらはらに、超然として爽やかです。それぞれに悩みや苦しみから逃れることのできない人の世を、悩み苦しみそのものをなくすことができないにしろ、月の光や風の色や無心な草木や生き物の営みなどに心を晴らしながら、私たちは年の瀬を迎え、またこれからも生きて行くのでしょう。

      
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  漢詩の主張は詩の終わりの四分の一の場所に置かれるのが常套です。八行詩の律詩は従って最後の二行が詩の主題です。改めてこの世の生き方に思いを馳せる歳末。その心を詠む「歳晩」詩の、末尾の二句はこのようなものです。

     目前(もくぜん)如(も)し遣(や)るべくんば
     身後(しんご)期(き)するを須(もち)ひず

 「目の前のことを思い通りにしおおせたら、死んだ後のことなど、どうにかしようなどとはもう思わない」というほどの意味になります。詩全体を読み取った上で、解釈には幅があることでしょうが、動かない根幹は「目前」の充実でありましょう。

      
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  作者の中巌円月(1300〜1375) は南北朝時代の臨済宗の僧。相模国鎌倉の出身で、俗姓は土屋氏。1324年元に渡って東陽徳輝のもとで修行しました。帰国後は建仁寺、建長寺などに歴住。学識は五山第一と謳われた人です。当時を代表する朱子学者としても知られます。仏種慧済禅師と諡されました。

      
1206椿5892.jpg                                       2011.12.6東京都清瀬市








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