2011年1月20日

第4回 冬夜長:振り返る少年の日

第4回【目次】         
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    * 漢詩
    * みやとひたち






      
19満月.jpg                                          23.1.19 東京都清瀬市


     堂上一盞燈
     挑盡冬夜長
                     釈良寛「冬夜長二首」より

   堂上一盞(いつさん)の燈(ともしび)
   挑(かか)げ尽して冬夜長し

   部屋には一基の燈火、
   燈芯が燃え尽きるまで過ごしても、なお明けない冬の夜の長さよ。

    一盞:盞は燈火の油を盛る皿。燭台を数える単位とした。

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  良寛の五言絶句「冬夜長」の一節です。
  昔の照明具はもちろん燈油(植物油)を燃料とした燭台です。「蛍雪の功」という成語のもとになった逸話は、貧しくて燈油が買えなかった晋の車胤(しゃいん)が蛍を集め、孫康(そんこう)が雪を窓辺に積んで、その光で勉学に励み、それぞれ科挙に通って世に出たと言うものです。夜の暮らしに燈油は欠かせないものだったのです。

  皿の油に芯を浸し、芯も燃えてしまうと火が小さくなるので、時々芯の先の燃えきった部分を掻き落として新しい芯を送ります。長く灯していると最後には芯も尽きてしまいます。

  良寛はこの頃の夜の長さを、あるだけの燈火の芯が燃え切ってしまってもまだ明けないという、生活に基づいた実感で淡々と詠んでいます。

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  もとの詩は五言絶句を二首連ねた「冬夜長二首」。文例に全文を挙げました。

  この詩はその一首目で、老いた身の眠りが浅く、目を覚まして誰もいない部屋にいると言うところに続く二句です。

  次の第二首目の絶句は以前「みやと探す...」の連載で御紹介したことがある詩です(連載第50回「光の復活」)。

     一思少年時
     読書在空堂
     燈火数添油
     未厭冬夜長

   一たび思ふ少年の時
   書を読みて空堂(くうどう)に在り
   燈火数(しばし)ば油を添へ
   未(いま)だ冬夜の長きを厭はざりしを

  これと対比すれば明らかなように、始めに挙げた二句は夜の長さをいかにももてあましていると詠むもので、そこに自らの老いを改めて自覚することにもなったのでしょう。

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  少年の日の思い出、思い出される何ものよりも、自分自身がみずみずしかったことにまず胸を衝(つ)かれる時が人には皆ありそうです。失われたことがはっきり分かってからの感覚です。悲しいとか嘆かわしいとかではなく、ただしみじみとした感慨と言うより他はない感情です。

      
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  さて、20日に大寒を迎えた今は、実はもっとも日が短かいとされる冬至の頃からすでにひと月。夜明けはだんだん早まり、日暮れも遅くなってゆく一方です。夜は次第に短くなりつつあります。

    
ひた手伝い5.jpg             "夜ガ長イノデー  休憩モ多イケドー  勉強ノ友デス"
                            若者よ勉強すべし

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