2009年6月 1日

第59回 :栴檀 楝(あふち)桐 薔薇 芒種 桜桃 桜桃忌

第59回【目次】         
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    * 漢詩・漢文
    * 散文
    * 訳詩・近現代詩
    * みやとひたち








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1 うすむらさき、しめり香のにほひ

   せんだんの花のうすむらさき
   ほのかなる夕(ゆふべ)のにほひ、
   幽(かす)かなる想(おもひ)の空に
   あくがれの影をなびかす。

   しめり香や、染(そ)みつつきけば
   やはらかに忍ぶ音(ね)もあり。
   とほつ代(よ)のゆめにさゆらぎ
   木のすがた、絶えずなげかふ。

                  「栴檀」(三木露風)より1・2連 


  栴檀というと、「栴檀は双葉(ふたば)より芳(かんば)し」という諺がまず思い浮かべられますが、諺にいうセンダンはこれではなく、植物でいうと白檀のことなのだそうです。香木ですね。

  栴檀(Melia azedarach:ムクロジ目・センダン科)は日本を含めアジア各地の熱帯・亜熱帯域に自生する落葉高木です。日本での別名にアミノキ、また『枕草子』などに「あふち(楝)」とあるのが栴檀のことと言われます。5月から6月の中頃にかけて、うす紫色の細かな五弁の花をたくさん付けます。花の後の果実は晩秋にようやく熟し、ヒヨドリなどの野鳥の食物になります。

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  『枕草子』の中で楝が見えるのは、木の花の趣深いものを列挙した段(37段「木の花は」)です。清少納言に拠れば「木の格好はむさくるしいけれど、花はとってもすてき(木のさまにくげなれど、楝(あふち)の花いとをかし。)」というのが楝評です。雑木で、繁るばかりのこの木にはたしかに風情がありません。花も小さい小花で至って素朴ですが、細やかに咲いて、なんとなく可愛らしいのが清少納言の目を引いたのでしょう。

  才気煥発に貴顕をやりこめるエピソードを数々残す『枕草子』の印象から、また同時代の才媛紫式部との対比から、派手で陽気で勝ち気、高飛車で鼻持ちならない女性とも見なされることの多い清少納言ですが、何でもない木の、見栄えのしない萎んだような細い花びらで集まって咲いている楝の小花に「をかし」を感じるのは、実に繊細なやさしい感覚と言えます。

kamo1.jpg                           21.6.1 東京都清瀬市柳瀬川

2 梅雨を前にして

  早くも梅雨の走りかと思うようなお天気が続き、6月になりました。まもなく二十四節気でいう芒種(ぼうしゅ)と言われる時期に至ります。「芒」とは「のぎ」と読み、稲や麦などの穂先についている針のような固い毛のことを言います。芒種は「のぎ」のある穀物の種を播いたり苗を植え付けたりすることを意味します。やがて雨期を迎えるこの頃は、田植えをはじめ農作業がせわしくなる時期なのです。雨は言うまでもなく恵みなのです。

  空模様にとかく心を奪われる時期ですが、野や木立の緑は温かく濡れたように濃く繁り合い、地上は雨を待つかの気配になりました。入梅は6月11日頃を言いますが、これは毎年実際の梅雨の入りとよく重なります。

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  春の花を終えた桜にかわいい実が熟して来ました。赤くみずみずしくつややかな粒は見た目にも季節の贅沢です。王維の詩に紫禁城の桜桃を百官が賜るという内容のものがあります。祖廟に供え物にしたともあり、唐代でも夏の御馳走であったようです。また、桜桃は血圧を低く安定させ、動脈硬化の予防にも効能があるとされて、早くから素朴な健康法にも採用されてきたようです。夏の季語にもなっています。
  太宰治(私は嫌いですが)の命日6月13日を「桜桃忌」と呼ぶのは、最後の作品の題名「桜桃」とこの果実の時期とがちょうど重なってのことでしょう。
  赤く輝く果実や日の光がうれしく大切に思われる雨の季節が、もうそこまで来ています。

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【文例】 漢詩・漢文

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