第67回 秋桜:コスモス 中秋名月
第67回【目次】
* 和歌
* 訳詩・近現代詩
* 散文
* みやとひたち
21.9.24 東京都清瀬市柳瀬川
1 秋桜
少し冷たく、匂(にほ)はしく、
清く、はかなく、たよたよと、
コスモスの花、高く咲く。
秋の心を知る花か、
うすももいろに高く咲く。
(「コスモスの花」与謝野晶子)
21.9.23 埼玉県所沢市
風がひんやりして参りました。秋の歩みが少し速さを増して来たようです。二十四節気では秋分の15日目、現行暦10月の上旬に、朝夕の冷気で露が凍りはじめる頃と言われる「寒露(かんろ)」が巡ってきます。今年は10月8日がその日に当たります。
夏の草花の名残も姿を見ることが希になりました。忙しい私たちがお彼岸を忘れないようにとばかり咲きだした彼岸花の、遠目にもくっきりした赤色とは対照的に、今ちょうど季節を迎えたコスモスの花は、集まって大勢で咲いていてもほんのりとやさしい風情です。
21.9.20 埼玉県所沢市
以前にこのコスモスを含む「新・秋の七草」を御紹介したことがありました(連載第43回)。そこにもお伝えしたとおり、この花は明治12年(1876)に来日したイタリア人彫刻家ヴィンチェンツォ・ラグーザ(1841〜1927)によって始めて日本に持ち込まれた植物でしたから、御紹介できる詩歌も新しいものに限られます。
21.9.22 埼玉県所沢市
コスモス登場から今日に至るまで百年あまりになりました。植物としては丈夫な性質で、育てるのに手は掛からず、荒れ地にも根付くと言い、景色にこの花を見ることは珍しくありません。そのせいか、明治以来の小説にはよく点景にコスモスを見ます。しかし、詩歌はと言うと、俳句には比較的佳作が多いものの、誰もが知っているコスモスの詩歌を探すことは難しく、万人に認められるコスモスの歌の定番は、歌謡曲も含めて、まだないと言うのが現状ではないでしょうか。
21.9.20 埼玉県所沢市
歌のコレクターとしては、秋のこの季節に、この清楚なやさしい花の風情にふさわしい日本人の歌が是非あってほしいと思います。しかし、最近の世の中を眺めて見れば、花を見て花の心を詠んだり、花に思いを託して歌ったりということは、日常感覚から随分遠いことになってしまっているのかもしれません。
しかし、流行歌とか時代を超えて定番になるような歌というのは、もともと歌などには無関心な、心ここにない暮らしをしているような人まで皆捉えて歌の波動に巻き込むような歌なのでしょう。よろず、ブームというものはそういうものなのでしょう。古典に伝えられる和歌や歌い継がれて来ている唱歌・童謡などを眺めると、たしかにそういう意味での力強さがあるように見えます。
21.9.21 埼玉県所沢市
冒頭に御紹介した詩は与謝野晶子のコスモスです。御存じの通り与謝野晶子は浪漫派(新派和歌)『明星』の旗手であり、詩歌の素材も新しいものを好んでよくこなします。ここに見る軽さや甘さの趣は、まるで現代の歌謡曲です。それを約一世紀前に実現している、というのはやはり非凡な才と言えましょう。
抑制のない、あまりにも淀みない言葉は、見ようによっては下品です。ぎりぎりのところでそれを抒情にしてしまう力量が、与謝野晶子にはあり、追随する作家にはどうしても真似のできないところです。ただ、こうした花の歌などは、流行歌職人のようにサラサラと似たものを量産し過ぎたせいなのか、心にとどまる一つの歌というのが残らないのが残念です。このコスモスも、同じ作者に類歌がたくさんあります。
21.9.21 埼玉県所沢市
コスモスとはもとはギリシャ語の「秩序」「飾り」「美しい」などを表すKosmos またCosmosという単語であると言います。星辰の秩序を指してまず星空を意味する言葉となり、そこから転じて宇宙という意味をも表すに到ったと言います。花のコスモスも、同じ形の花びらがきれいに放射状に並ぶ端正な姿に、秩序の美を感じたところから名付けられたものでしょう。
21.9.22 埼玉県所沢市
22.9.22 埼玉県所沢市
21.9.22 埼玉県所沢市
地上に花のコスモスが美しいこの頃は、天上夜空も星辰が秋の輝きを増す頃。そして、一年で最も美しい月とされる中秋の名月はこの月(陰暦八月)の満月です。今年は現行暦の10月3日になります。
日本人は伝統的に、時間は暦の法則に従って巡り、したがって季節は暦に従って進み行くという自然観を持っていました。法則によれば「秋」は陰暦の七、八、九月。中秋はその中の陰暦八月の別名です。さらに満月十五夜となれば、日付はその月の十五日目、八月の真ん中であります。源順の歌に
水のおもに照る月なみをかぞふれば今宵ぞ秋の最中(もなか)なりける
と歌われたのは、まさしくその月の位置を、空間と時間の両方から詠んでいるのです。一年の中でも最も情趣が豊かであると言われる「秋」という季節の、今が真ん真ん中ということです。それにつけても、3日の夜空はお天気に恵まれると良いですね。
21.9.24 東京都清瀬市柳瀬川
* 和歌
* 訳詩・近現代詩
* 散文
* みやとひたち
21.9.24 東京都清瀬市柳瀬川
1 秋桜
少し冷たく、匂(にほ)はしく、
清く、はかなく、たよたよと、
コスモスの花、高く咲く。
秋の心を知る花か、
うすももいろに高く咲く。
(「コスモスの花」与謝野晶子)
21.9.23 埼玉県所沢市
風がひんやりして参りました。秋の歩みが少し速さを増して来たようです。二十四節気では秋分の15日目、現行暦10月の上旬に、朝夕の冷気で露が凍りはじめる頃と言われる「寒露(かんろ)」が巡ってきます。今年は10月8日がその日に当たります。
夏の草花の名残も姿を見ることが希になりました。忙しい私たちがお彼岸を忘れないようにとばかり咲きだした彼岸花の、遠目にもくっきりした赤色とは対照的に、今ちょうど季節を迎えたコスモスの花は、集まって大勢で咲いていてもほんのりとやさしい風情です。
21.9.20 埼玉県所沢市
以前にこのコスモスを含む「新・秋の七草」を御紹介したことがありました(連載第43回)。そこにもお伝えしたとおり、この花は明治12年(1876)に来日したイタリア人彫刻家ヴィンチェンツォ・ラグーザ(1841〜1927)によって始めて日本に持ち込まれた植物でしたから、御紹介できる詩歌も新しいものに限られます。
21.9.22 埼玉県所沢市
コスモス登場から今日に至るまで百年あまりになりました。植物としては丈夫な性質で、育てるのに手は掛からず、荒れ地にも根付くと言い、景色にこの花を見ることは珍しくありません。そのせいか、明治以来の小説にはよく点景にコスモスを見ます。しかし、詩歌はと言うと、俳句には比較的佳作が多いものの、誰もが知っているコスモスの詩歌を探すことは難しく、万人に認められるコスモスの歌の定番は、歌謡曲も含めて、まだないと言うのが現状ではないでしょうか。
21.9.20 埼玉県所沢市
歌のコレクターとしては、秋のこの季節に、この清楚なやさしい花の風情にふさわしい日本人の歌が是非あってほしいと思います。しかし、最近の世の中を眺めて見れば、花を見て花の心を詠んだり、花に思いを託して歌ったりということは、日常感覚から随分遠いことになってしまっているのかもしれません。
しかし、流行歌とか時代を超えて定番になるような歌というのは、もともと歌などには無関心な、心ここにない暮らしをしているような人まで皆捉えて歌の波動に巻き込むような歌なのでしょう。よろず、ブームというものはそういうものなのでしょう。古典に伝えられる和歌や歌い継がれて来ている唱歌・童謡などを眺めると、たしかにそういう意味での力強さがあるように見えます。
21.9.21 埼玉県所沢市
冒頭に御紹介した詩は与謝野晶子のコスモスです。御存じの通り与謝野晶子は浪漫派(新派和歌)『明星』の旗手であり、詩歌の素材も新しいものを好んでよくこなします。ここに見る軽さや甘さの趣は、まるで現代の歌謡曲です。それを約一世紀前に実現している、というのはやはり非凡な才と言えましょう。
抑制のない、あまりにも淀みない言葉は、見ようによっては下品です。ぎりぎりのところでそれを抒情にしてしまう力量が、与謝野晶子にはあり、追随する作家にはどうしても真似のできないところです。ただ、こうした花の歌などは、流行歌職人のようにサラサラと似たものを量産し過ぎたせいなのか、心にとどまる一つの歌というのが残らないのが残念です。このコスモスも、同じ作者に類歌がたくさんあります。
21.9.21 埼玉県所沢市
コスモスとはもとはギリシャ語の「秩序」「飾り」「美しい」などを表すKosmos またCosmosという単語であると言います。星辰の秩序を指してまず星空を意味する言葉となり、そこから転じて宇宙という意味をも表すに到ったと言います。花のコスモスも、同じ形の花びらがきれいに放射状に並ぶ端正な姿に、秩序の美を感じたところから名付けられたものでしょう。
21.9.22 埼玉県所沢市
22.9.22 埼玉県所沢市
21.9.22 埼玉県所沢市
地上に花のコスモスが美しいこの頃は、天上夜空も星辰が秋の輝きを増す頃。そして、一年で最も美しい月とされる中秋の名月はこの月(陰暦八月)の満月です。今年は現行暦の10月3日になります。
日本人は伝統的に、時間は暦の法則に従って巡り、したがって季節は暦に従って進み行くという自然観を持っていました。法則によれば「秋」は陰暦の七、八、九月。中秋はその中の陰暦八月の別名です。さらに満月十五夜となれば、日付はその月の十五日目、八月の真ん中であります。源順の歌に
水のおもに照る月なみをかぞふれば今宵ぞ秋の最中(もなか)なりける
と歌われたのは、まさしくその月の位置を、空間と時間の両方から詠んでいるのです。一年の中でも最も情趣が豊かであると言われる「秋」という季節の、今が真ん真ん中ということです。それにつけても、3日の夜空はお天気に恵まれると良いですね。
21.9.24 東京都清瀬市柳瀬川
和歌へ