潜在能力
22.5.8 東京都清瀬市
御近所のF.ミミちゃんのお宅は、四季に花が絶えない綺麗なお庭に、穏和な御夫婦ふたりの静かなお家です。猫家族はミミちゃんのほかにも二匹いて、みなおっとりしたタイプで、F夫人の花の手入れなどにまつわって遊んでいるのを通りがかりによく見かけます。我が家の二人と違ってひとりで外歩きもするので、御夫婦はのほほんとしたF家の猫家族を案じて、ご町内の乱暴者の動静には敏感で、とかく外猫情報に詳しいのです。
そのF夫妻から、先日グレコちゃんの話を聞きました。
22.5.8 東京都清瀬市
F氏が二階から降りて行くと、"階段を降りたところで遇いました"
ええっ?
グレコちゃんはF家の猫たちが通行する出入り口から勝手に上がり込んでしまうらしいのです。
"みんな(ミミちゃんたち猫家族)のご飯を食べて帰ります"
"三匹もいるのに、何にもしないで食べられちゃってます"
"ミミは勝負して負けちゃったんですよ"
"情けないなあ"
などと淡々と語る御夫妻です。
玄関から遊びに来て庭に廻るミミちゃん。
呼ぶと振り返って真っ直ぐ坐ります。
初めて御紹介した時に触れたとおり、ミミちゃんはF家の先代の猫に顔立ちも鷹揚な性質もよく似ているというので、赤ちゃん猫で来た時に名前をそっくりそのまま受け継ぎました。可愛い名前ですが、実はF家唯一の男の子なのです。
アメリカンショートヘアの混じった、がっしりした大柄の体躯でなかなか格好の良いミミちゃんですから、小柄なグレコちゃんに"勝負"して負けるというのはどういうことなのかと不思議です。が、およそミミちゃんからは"勝負"の姿が想像できないのも事実です。
いつの間にかお家まで侵略されそうなミミちゃんたちですが、F夫人によれば、グレコちゃんは他にも数軒立ち回り先があるそうです。
"マタ タヌキチ君..."
庭先にそんな積極的な猫が常駐し、夜中には相変わらずタヌキチ君がルルルルルーと話しかけて来ます。みやはすっかり慣れて、ガラス戸からの景色も何と言うこともないといった落ち着き方ですが、ひたちの方は逆に、そういうことが多分刺激になって、この頃頓に外に関心が強くなって来ています。
"マタ グレちゃん ト タヌキ カ"
"シジユウカラ モ 来テル。オ外ニ オイデッテ 言ッテルー"
そうなのかな?
そんな折も折、ひたちに思いがけない問題発生。
現場はここ。
この腰高の窓は、実は物干し場への出口です。室中のハンガーも洗濯物の一事置き場です。
ひたちもみやも物干し場に出るのが大好きですが、そこから屋根に降りてしまうとなかなか帰ってこないので、物干し場に出すのは家族がついている時だけにしています。
ところが、ひたちはいつの間にかこのサッシの窓を開けられるようになってしまいました。
それで、仕方なく窓を開けていない時は常に鍵もかけることにしたのですが...
"コノ開ケ方 知ッテルヨー"
ひたちは伸び上がって鍵に手を掛け、事も無げにサクッと鍵を開けると引き続き窓を横に押し開けて、物干し場に出て行こうとします。
驚いて捕まえました。
鍵を開けられるようになっていたとは。
こんな風にサクッと家中のサッシの鍵を開けまくられたら不用心で適いません。急遽
"ひたちに鍵を開けられない対策"を講じ、現在は何とか凌いでいます。
この度のことでしみじみ感心したのは、"ひたちは見ている!"ということと、"ひたちは努力する!"ということです。
22.5.16 東京都清瀬市
古い建物で、このサッシの窓は本当に重いのです。ひたちは初めてこれを開ける時、簡単に開きそうにない窓をミリ単位でスライドさせながら、そうしてゆけばやがては出られる隙間ができるという見込みがあったのでしょうか。みやにはない根気強さです。そもそもみやの体重では歯が立たないのかもしれませんが、みやは悟りが早い分最初からこういう無茶な試みをしないように見えます。
"コケの一念"などと言ったら失礼でしょうね、驚くべき根気強さです。
翡翠 22.5.8 東京都清瀬市