墨場必携:漢詩 秋夜 露 雁 擣衣
・秋夜
秋夜長
夜長無睡天不明
耿耿残燈背壁影
蕭蕭暗雨打窓声
秋の夜[よ]は長し。夜長くして睡[ねむ]ることなければ天も明[あ]けず、
耿々[かうかう]たる残りの燈[ともしび]壁に背[そむ]ける影[かげ]、
蕭々[せうせう]たる暗[よる]の雨は窓を打つ声[こ])あり。
白居易「上陽白髪人」より 『和漢朗詠集』233
◎『白氏文集』所収の新楽府「上陽白髪人」の雑言句。
・秋夜
遅遅鐘漏初長夜
耿耿星河欲曙天
遅々[ちち]たる鐘漏[しようろう] 初めて長き夜[よ]、
耿々[かうかう]たる星河[せいか] 曙[あ]けなんと欲する天。
白居易「長恨歌」より 『和漢朗詠集』234
・秋夜
蔓草露深人定後
終霄雲尽月明前
蔓草[まんさう]露深し 人定[しづ]まりて後[のち]、
終宵[よもすがら]雲尽[つ]きぬ 月[つき]の明らかなる前[まへ]。
小野篁「秋夜詣祖廟詩」より 『和漢朗詠集』235
・露
可憐九月初三夜
露似真珠月似弓
憐[あは]れむべし九月[きふげつ]初三[しよさん]の夜[よ]、
露は真珠に似たり、月は弓に似たり。
白居易「暮江吟」より『和漢朗詠集』338
・雁
碧玉装筝斜立柱
青苔色紙数行書
碧玉[へきぎよく]の装へる筝[しやうのこと]は斜[ななめ]に立てたる柱[ことぢ]、
青苔[せいたい]の色の紙には数行[すうかう]の書[しよ]
菅原文時『和漢朗詠集』322
◎秋の青い空に雁が連なって渡るさまを詠んだもの。
・擣衣[たうい]
八月九月正長夜
千声万声無了時
八月九月[はちげつきうげつ]正[まさ]に長き夜[よ]、
千声万声[せんせいばんせい)]了[や]む時なし
白居易「聞夜砧」より『和漢朗詠集』345
・擣衣[たうい]
北斗星前横旅雁
南楼月下擣寒衣
北斗[ほくと]の星の前[まへ]に旅雁[りよがん]横たはり、
南楼[なんろう]の月の下[もと]には寒衣[かんい]を擣[う]つ。
劉元叔「妾薄命」より『和漢朗詠集』346
【文例】和歌へ