墨場必携:漢詩
20.9.25 東京都清瀬市
・冬夜長 釈良寛
一思少年時
読書在空堂
燈火数添油
未厭冬夜長
一たび思ふ少年の時、
書を読みて空堂[くうどう]に在り。
燈火数[しばし]ば油を添へ、
未[いま]だ冬夜の長きを厭はざりしを。
ふと思い出す少年の日のある時。
夜人気(ひとけ)のない家で本を読み、
燈火の油をしばしば注ぎ足しながらも、
冬の夜の長いことが少しも苦にならなかったのを。
・冬夜読書 菅茶山
雪擁山堂樹影深
檐鈴不動夜沈沈
閑収乱帙思疑義
一穂青燈万古心
雪は山堂を擁して樹影深く、
檐鈴[えんれい]動かず夜沈沈[ちんちん]たり。
閑[しづか]に乱帙[らんちつ]を収めて疑義を思ふ、
一穂[いつすい]の青燈[せいとう]万古[ばんこ]の心
※大意は第50回本文参照
・読書惜晷[しよをよみてきををしむ] 春澤永恩
光陰荏苒似抛梭
五典三墳奈積多
蛍雪雖奇不如晷
書窻欲借魯陽戈
荏苒:転がり進む
梭:機織りにおいて、横糸を渡す道具
晷:日の光
魯陽:楚の人。韓と戦った時、日暮れになったので
戈を援って夕日を招き返したという。
光陰は荏苒[じんぜん]として梭[ひ]を抛[なげう]つに似、
五典三墳[ごてんさんぷん]積むこと多きを奈[いか]んせん。
蛍雪奇[き]と雖[いへど]も晷[き]に如[し]かず
書窻[しよそう]借りんと欲す魯陽[ろよう]の戈[ほこ]を。
歳月の展転ころがりゆくように過ぎること、梭を投げるにも似ている。
さまざまの書物を積み上げておくのが多いことをどうしたものだろう。
蛍雪の努力は並のことではないが、日の光には及ばない。
書を読む窓に夕日を招き返した魯陽の戈を借りたいもの。
【文例】 散文へ