墨場必携:漢詩 梅花 墨梅
サザンカの密を吸うメジロ 21.2.7 東京都清瀬市
・梅花 北宋 王安石
牆角数枝梅
凌寒独自開
遙知不是雪
為有暗香来
牆角[しようかく]数枝の梅
寒を凌ぎて独自に開く
遙かに知る是れ雪ならざるを
暗香[あんこう]の有りて来たるが為なり
土塀のすみの梅の数本の枝が、
寒さをものともせず、自分で花を咲かせた。
遠くからでも、是が雪ではないとわかる。
どこからともなく、かぐわしい香りが漂ってくるからだ。
※牆角:土塀の角、目立たない所。
ひっそり咲く梅の品格を象徴するとして、この詩以来牆角は
梅の縁語に用いられるようになった。
・二月五日携家観梅於月瀬村 江戸 梁川星巌
(二月五日家(か)を携えて梅を月瀬村に観る)
衝破春寒暁出城
東風剪剪弄衣軽
漫山匝水二十里
尽日梅花香裏行
春寒を衝破して暁に城を出づれば
東風[とうふう]剪剪[せんせん]として衣を弄して軽し
漫山[まんざん]匝水[さふすい]二十里
尽日[じんじつ]梅花[ばいくわ]香裏[こうり]に行く
春の寒さを破って暁に街を出ると、
春風は身を切るように寒く、着物をひるがえす。
梅の花は山一面に咲き拡がり、水辺をめぐること二十里、
一日中、梅の香りの中を歩き続けた。
※家:妻女。星巌の遠縁から嫁した十五才年下の紅蘭。旧姓名張氏。
※月瀬村:奈良県
・墨梅 江戸 柴野栗山
春風南客憶梅花
忽向壁間写出斜
記得幽林晴雪夜
月移痩影上窓紗
春風南客[なんかく]梅花を憶[おも]ひ
忽[たちま]ち壁間[ひきかん]に向かって写出すること斜めなり
記し得たり幽林[ゆうりん]晴雪[せいせつ]の夜
月は痩影[そうえい]を移して窓紗[さうしや]に上らしむ
春風の吹く頃となって、南から来た旅人である私は
故郷の梅の花を思い起こし
ふと部屋の壁に梅の枝の絵を描いてみた。
今も心に残るのは、深い森の中で過ごしたある晴れた雪の夜、
月の光は梅の枝の細い影を移らせて、
窓覆の高さまで上らせてきたことであった。
※墨梅:墨で描いた梅の絵
【文例】 和歌へ