2008年4月 1日

墨場必携:和歌 柿本人麻呂『万葉集』3305...

【文例】

[和歌]

・桜花 盛少女[さかえをとめ] 汝[な]をぞも 吾に寄すとふ
 吾をぞも 汝[な]に寄すといふ
                 柿本人麻呂『万葉集』3305


・照りもせず曇りもはてぬ春の夜の
 朧月夜にしくものぞなき
                 大江千里『古今和歌集』55


・桜こそ思ひ知らすれ
 咲きにほふ花も紅葉[もみぢ]も常ならぬ世を
                 『源氏物語』総角 薫の歌


・吹く風を勿来[なこそ]の関と思へども
 道も狭[せ]に散る山桜かな
                源義家『千載和歌集』


・ささ波や志賀の都はあれにしを
 昔ながらの山桜かな
                平忠度『平家物語』巻七 忠度都落


・行きくれて木の下蔭[したかげ]を宿とせば
 花や今宵の主[あるじ]ならまし
                平忠度『平家物語』巻九 忠度最期


                     20.3.27東京都清瀬市

・八重[やへ]にほふ軒端の桜うつろひぬ
 風よりさきに訪[と]ふひともがな
                式子内親王『新古今和歌集』137


・散る花はまた来む春も咲きぬべし
 別[わかれ]ばいつかめぐり会ふべき
                少将脩憲[ながのり]『山家集』


・ふりまがふ桜色こき春風に
 野なる草木のわかれやはする
                西行『山家集』


・山の調[しらめ]は桜人[さくらびと]
 海の調は波の音
 又嶋廻るよな
 巫女[きね]が集ひは中の宮
 厳粧[けさう]遣戸[やりど]は此処[ここ]ぞかし
                     『梁塵秘抄』323
 ◎ここの「桜人」は催馬楽[さいばら]の曲名。植物の桜ではない。


・花鎮め[はなしづめ]

 や とみくさのはなや
 やすらひ花や
 や とみをせばなまへ
 やすらひ花や
 や とみをせばみくらの山に
 やすらひ花や
 や あまるまでなまへ
 やすらひ花や
 や あまるまでいのちをこはば
 やすらひ花や
◎京都今宮神社鎮花祭(ちんかさい:花(桜)の霊を鎮めることで、春の流行病を
 避けようとする祭祀)における祭り歌。平安時代末からの伝承。
 「や」は囃子詞(はやしことば)


                    20.3.27東京都清瀬市

・桜花ふかきいろとも見えなくに
 ちしほ[千入:千回染料に入れるの意から濃い色]に染めるわがこころかな
                 本居宣長

・花くはし桜もあれど
 此のやどのよゝのこゝろを我はとひけり
                 明治天皇御製
◎形容詞「くはし」は美しいの意。


・桜ばないのち一ぱいに咲くからに
 生命[いのち]をかけてわが眺めたり
                 岡本かの子


・花のごと土にし立たば
 わがいのちおのづからなる色にし咲かむ
                 岡本かの子


・ゆめさらさら 歌に朽つべき身ならねど
 かはゆきものは桜なりけり
                 与謝野鉄幹


・見わたせば人のこころもおぼろにて
 無しともいへぬ花かげの鬼
                 石川淳
◎時代小説『修羅』に作中人物の合作として収録


                20.3.31東京都清瀬市柳瀬川堤

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