2009年4月 1日

墨場必携:漢詩


23sakr5.jpg                                      吉野桜 21.3.23 東京都清瀬市
・桜    巻菱湖

   山雲濃暖白成堆
   幾日晴烘擁不開
   忽被驚風掀起去
   一団香雪漲空来

  山雲濃暖[ぢようだん]にして白[はく]堆[たい]を成し、
  幾日晴烘[せいこう]するも擁[よう]して開かず。
  忽ち驚風に掀起[きんき]せられ去り、
  一団の香雪[かうせつ]空に漲り来たる。

  山の雲は濃く暖かく白く堆(うづたか)くつもり、
  幾日か晴れて烘(あたたか)くなってもしっかりと包み込んで開かない。
  忽ち激しい風にあおられて、
  (桜の花びらは)一団の香雲となって空一面に広がった。
  

     
27sakr4.jpg                                        吉野桜 21.3.27 東京都清瀬市

・偶成 其の一    松本奎堂

   吹到幾番花信風
   東臺春色漸冲融
   今朝認得鐘声緩
   来自香雲暖雪中
 
  吹き到るは幾番の花信風[くわしんふう]ぞ、
  東臺[とうだい]の春色漸[やうや]く冲融[ちゆうゆう]せり。
  今朝鐘声の緩[ゆるや]かなるを認め得たるは、
  香雲[かううん]暖雪[だんせつ]の中[うち]より来ればなり。
   ※花信風:開花を知らせる風
    東臺:上野の山、東叡山
    香雲暖雪:香る雲と暖かい雪、すなわちいずれも桜の花の形容

  吹いてきたのは何度目の花便りだろう、
  上野の山の春もようようやわらいできた。
  今朝の鐘の音がゆったり聞こえるのは、
  盛りの桜の中を通って来るからなのだ。

     
21sakr1.jpg                                         山桜 21.3.21 東京都清瀬市

・桜花    草場船山   

   西土牡丹徒自誇
   不知東海有名葩
   徐生当日求仙處
   看做祥雲是此花

  西土[せいど]の牡丹徒[いたづ]らに自[みづか]ら誇るは、 
  東海に名葩[めいは]有るを知らざればなり。
  徐生当日仙[せん]を求むる處、
  祥雲と看做[みな]せるは是れ此の花ならん。
   ※西土:西の地、中国。
    東海:中国から見て東の海の中の国、わが国日本。
    葩:花
    徐生:秦の徐福。始皇帝の命を受け仙薬を求めて長い旅に出た。
       日本に渡来したという伝説がある。

  中国では牡丹をむやみに自慢するのは、
  わが国に桜という名花があることを知らないからである。
  徐福が仙薬を求めて来た時、
  祥雲と見たのは咲き誇るこの桜の花であったろう。

      
27sakr7.jpg                                       紅枝垂桜 21.3.27 東京都清瀬市

・花下睡猫(花下の睡猫)    釋梅癡

   不追𨿸犬去昇天
   留住人間作嬾仙
   恰似五労猶病酒
   薬欄風暖背花眠

  𨿸犬を追ひ去りて天に昇らず、
  留りて人間に住して嬾仙[らんせん]と作[な]る。
  恰も五労[ごらう]に似、猶ほ病酒[びようしゆ]のごとく、
  薬欄[やくらん]風暖かく花に背きて眠る。
   ※不追𨿸犬去昇天:淮南王劉安が仙となって昇天した時、余った仙薬を飲んだ
            鶏や犬もともに昇天したという故事を踏む。
    嬾仙:怠け仙人
    病酒:酔いつぶれる
    薬欄:一説に芍薬を植えた囲い、別の説に「薬」「欄」ともに庭園のしきりのこと。

  𨿸や犬の後について天に昇ったりせず、
  この世に留まってなまけ仙人になった。
  眠る姿は人を損なうという五労に似て深酔いのようであり、
  薬欄に吹く風は暖かく、花に背を向けて眠っている。

21kob2.jpg                                         辛夷 21.3.21 東京都清瀬市
     
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【文例】 和歌

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