2008年10月15日

墨場必携:訳詩・現近代詩 秋 オイゲン・クロアサン...


[訳詩・現近代詩]

・秋   オイゲン・クロアサン  
     「海潮音」上田敏
 
 けふつくづくと眺むれば、
 悲の色口にあり。
 たれもつらくはあたらぬを、
 なぜに心の悲める。
 
 秋風わたる青木立
 葉なみふるひて地にしきぬ。
 きみが心のわかき夢
 秋の葉となり落ちにけむ。

・嗟嘆   ステファンヌ・マラルメ  
     「海潮音」上田敏
 
 静かなるわが妹、君見れば想すゞろぐ。
 朽葉色に晩秋の夢深き君が額に、
 天人の瞳なす空色の君がまなこに、
 憧るゝわが胸は、苔古りし花苑の奥、
 淡白き吹上の水のごと、空へ走りぬ。
 
 その空は時雨月、清らなる色に曇りて、
 時節のきはみなき鬱憂は池に映ろひ
 落葉の薄黄なる憂悶を風の散らせば、
 いざよひの池水に、いと冷やき綾は乱れて、
 ながながし梔子の光さす入日たゆたふ。


                    20.10.12 東京都清瀬市

・秋   伊東静雄

 深い山林に退いて
 多くの旧い秋らに交つてゐる
 今年の秋を
 見分けるのに骨が折れる
        「わがひとに与ふる哀歌」所収


・月から見た地球  北原白秋
         『童話の月』所収

  月から見た地球は、円かな、
  紫の光であった、
  深いにほひの。

  私は立つてゐた、海の渚に。
  地球こそは夜空に
  をさなかつた、生まれたばかりで。

  大きく、のぼつてゐた、地球は。
  その肩に空気が燃えた。
  雲が別れた。

  嘲鳴りを、わたしは、草木と
  火を噴く山の地動を聴いた。
  人の呼吸を。

  わたしは夢見てゐたのか、
  紫のその光を、
  わが東に。

  いや、すでに知つてゐたのだ。地球人が
  早くも神を求めてゐたのを、また創つてゐたのを。


                   20.10.10 東京都清瀬市

・月に飛ぶもの   北原白秋

  月の光がさしました
  枯れた葡萄に
  日時計に

    月の燻[いぶ]しになりました
  ちらばる色も
  縫ふ影も

    月に消え消え飛ぶものよ
  ほの紫の
  連れ鳥よ

    月の遥かになりました
  見果てぬ夢よ
  あの頃よ


・郷愁    北原白秋

  月の夜ぶかに
  空飛ぶものは、
  夢の影鳥、
  秋の聲。


・「山里の夕ぐれ」(セレナード第2楽章より)  小田三平

  静かに 秋の日 落ちて
  丘も 野辺も 次第に消える
  はるかに 山の日 あかく
  静かに 山里は 暮れる
    ○モーツアルトの楽曲に詩を付けて歌われたもの。


                    20.10.5 埼玉県所沢市

・どこにも秋がある   サトウハチロー

  ゆれてるすすきに 秋がある
  さらりとしている 秋がある
  とびたつイナゴに 秋がある
  さびしいみどりの 秋がある
  友と歩く 友と歩く
  その足音にも 秋がある

  誰かを呼ぶ手に 秋がある
  答える返事に 秋がある
  流れる小川に 秋がある
  浮いてる木(こ)の葉に 秋がある
  友と唄う 友と唄う
  その唄声にも 秋がある

  遠くのけむりに 秋がある
  消えてく色にも 秋がある
  ただよう匂いに 秋がある
  静にしみこむ 秋がある
  友と仰ぐ 友と仰ぐ
  その青空にも 秋がある



【文例】 唱歌

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