2008年3月 1日

墨場必携:近現代詩・訳詞 蛍の光...

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[近現代詩・訳詞]

・蛍の光  『小学唱歌集(初)』明治14年

1 ほたるのひかり まどのゆき
  書(ふみ)よむつき日 かさねつつ
  いつしか年も すぎのとを
  あけてぞけさは わかれゆく

2 とまるもゆくも かぎりとて
  かたみにおもふ ちよろづの
  こころのはしを ひとことに
  さきくとばかり うたふなり

◎「蛍雪の功」。灯火の油が買えなかったので、晋の車胤は蛍の光で、孫康は
  雪明かりで書物を読んだ故事(『蒙求(もうぎゅう)』)。
  苦心して学問に励むことを言う。


・あふげば尊し 『小学唱歌集(三)』明治17年

1 あふげば 尊し(とうとし) わが師(し)の恩(おん)
  教(おし)への庭にも はや いくとせ
  おもへば いと疾(と)し このとし月
  今こそ わかれめ いざさらば

2 互いに むつみし 日ごろの恩
  わかるる後にも やよ わするな
  身をたて 名をあげ やよ はげめよ
  いまこそ わかれめ いざさらば

3 朝ゆふ なれにし まなびの窓
  ほたるのともし火 つむ白雪(しらゆき)
  わするる 間(ま)ぞなき ゆくとし月
  今こそ わかれめ いざさらば


             20.2.28東京都小金井市小金井公園

・道程  高村光太郎

 僕の前に 道はない
 僕の後ろに 道は出来る

 ああ 自然よ
 父よ

 僕を
 一人立ちさせた
 広大な父よ

 僕から目を離さないで
 守る事をせよ
 常に父の気魄を僕に充たせよ

 この遠い道程のため
 この遠い道程のため



・送別  伊東静雄

 みそらに銀河懸くるごとく
 春つぐるたのしき泉のこゑのごと
 うつくしきうた 残しつつ
 南をさしてゆきにけるかな

◎田中克己の南征に詠まれた。


・星(抜粋)  丸山薫

  冬の雪が消えると
  山肌は 噴き出す緑でたちまち染まる
  夜はつよく匂った
  草と木と星と
  植物と鉱物とが--

  火星 金星 シリュウス 北極星
  北斗 さそり 白鳥座
  それら どの一つを見つめても
  星ほどしだいに親しく思えてくるものはなく
  同時に 星ほどだんだんに遠く思えてくるものもない
  夜ふけ 星を見疲れた眼をつむって
  私は快く眠りにはいった
  まったく 山の住まいでは
  私は夢もみずにぐっすりと眠った
  森で小鳥達の囀りが
  賑やかに暁をつげるまで


[唱歌・童謡]

・花さく春  伊沢修二

 花咲く春の あけぼのを
 早疾[と]く起きて 見よかしと
 鳴くウグヒスも 心して
 人の夢をぞ 覚ましける
 ホーホケキョ ホーホケキョ
 ケキョ ケキョ ケキョ ケキョ
 ホーホケキョ
 ホーホケキョ ホーホケキョ

     『幼稚園唱歌集』明治20.12


・風  巽聖歌

 風は木ごとに言っていた
 もうじき春のくることを。

 ちゃっちゃが鳴いて谷あいの
 雪もすっかり消えること。

 風は田畑に知らせてた、
 おっつけ木の芽が出ることを。

 畦には蕗の薹が萌え
 子どもが摘みに来ることを。

 風は僕にもそう言った。
 復活祭[いすた]もあとから来ることを。


・春のくる頃  平野直

 どこかに 春が
 しのんでいて
 こっそり こっそり
 やってくる。

 春は すてきだ
 製板所
 じゅうんと 日ぐれは
 しみこむよ。

 あをじの 卵は
 巣に 小さい
 春が ほうやり
 うまれてる。

 どこかに 春が
 かくれていて
 わあと でそうな
 気がするよ。






・昼  林古渓

1 歌につかれ 文[ふみ]に倦[う]みて
  携[たづさ]へゆくや 春の野
  小川の根芹 おしわけにぐる
  小鮒の腹 白く光る

2 霞む空に名乗る雲雀
  しばしは息[いこ]へ 堤に
  つくしは誇り 菫うつぶす
  小草しきて 汝[なれ]も臥せや


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