2008年6月 1日

墨場必携:訳詩・近現代詩 偶成  ポオル・ヴェルレヱン...

[訳詩・近現代詩]

・偶成  ポオル・ヴェルレヱン
     永井荷風訳『珊瑚集』所収

  空は屋根のかなたに
    かくも静かにかくも青し。
  樹は屋根のかなたに
    青き葉をゆする。
  
  打仰[あふ]ぐ空高く御寺の鐘は
    やはらかに鳴る。
  打仰ぐ樹の上に鳥は
    かなしく歌ふ。

  ああ神よ。質朴なる人生は
    かしこなりけり。
  かの平和なる物のひびきは
    街より来たる。

  君、過ぎし日に何をかなせし。
    君今ここに唯嘆く。
  語れや、君、そもわかき折
    なにをかなせし。


                    20.5.27 東京都清瀬市

・雨がふつてゐる  ギー・シャルル・クロス
          堀口大学訳『月下の一群』より抜粋

  雨がふつてゐる、愛撫のやうだ、音楽のやうだ。
  黙らうとしないかしかな声のやうだ
  お前は夢想と仕事を続けるがよい
  お前は夜ふかしするがよい、孤独な心よ。

  雨がふつてゐる、時にはいそがしく、時にはゆつくりと
  雨はもう明日の朝までお前を見すてはしないだらう
  お前はランプの灯かげで煙草をのんだり思ひにふけつたり
  またはもう一度お前の親しい悩みを独語に云つてみたりするがよい。

  雨がふつてゐる  お前はもう眠いのか   雨はお前をゆすぶつてくれる
  雨はささやきながら昔噺をきかせてくれる
  雨はお前のためにやさしい、哀れに疲れた魂よ、
  お前はもうねむるがよい、雨はそに暗夜の中にゐてくれる。
  

・無題  マルシャーク
     北村順治訳

  道は花いっぱい、春は
  ほんとに夏と交代。
  私に松が手をさしのべ、
  あからんだうろこにおおわれた花をつけて

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