銀座にある東京画廊+BTAPで「比田井南谷展」が開催されています。

 

会期 2024年10月5日(土)〜2024年11月16日(土)

会場 東京画廊+BTAP

   東京都中央区銀座8-10-5 第4秀和ビル7階

   電話 03 3571 1808

開廊時間 火–土 12:00–18:00
休廊日 日・月・祝

11月7日(木)から10日(日)まで開催される「アートウィーク東京」の期間は日曜祝日も開廊、10;00-18:00

 

美術館と異なり、日曜祝日がお休みです。

開廊時間も12:00-18:00なので、ご注意ください。

 

東京画廊+BTAPは1950年に開廊した日本最初の現代美術画廊。

欧米の新しい動向を紹介し、日本の戦後美術、韓国・中国の現代美術をいち早く取り扱いました。

 

東京画廊と南谷の最初の出会いは1977年です。

神奈川県美術展の審査で知り合いだった画家、斎藤義重さんが、東京画廊創業者の山本孝さんと連れ立って南谷宅を訪れました。

山本さんは現代美術だけではなく、東洋の美術も紹介していくべきだと考え、南谷所蔵の拓本による展覧会の企画をもちかけたのです。

ふつうの拓本ではつまらないから「磨崖碑」を中心にしようと南谷が提案し、「磨崖碑拓本展」が開催され、『芸術新潮』に特集が組まれるなど、美術界にも大きな反響を与えました。

展示内容を紹介するブログはこちら

 

そうこうするうちに、私は山本さんと親しくなり、無謀にも「比田井南谷展はやらないの?」と聞いたのです。

「え? やっていいの?」と山本さん。

お世辞だろうなと思っていたら、実現しました(言ってみるものだ)。

 

1987年、最初の比田井南谷個展が開催されました。

このときに展示されたのが、最初の前衛書「電のヴァリエーション」(1945年)です。

現在は千葉市美術館所蔵ですが、ほかにも京都国立美術館や新潟県立近代美術館所蔵となった作品が展示されました。

 

2000年には一周忌を記念して「比田井南谷・回顧展「気体的書道の創造」が開催されました。

作品選定は彦坂尚嘉氏。

南谷は作品の前におびただしい数の草稿を作るのですが、これにとても興味をもってくださったのを覚えています。

現在、香港のM+美術館所蔵の超大作はここで初めて展示され、その迫力が観客を圧倒しました。

ちなみに彦坂氏は「DVD・比田井南谷」にご出演くださり、「電のヴァリエーション」をご覧になったときの衝撃を語ってくださっています。

 

2012年には「比田井南谷と小葩」展が開催され、田宮文平先生をお招きしたシンポジウムは、天来書院でライブ配信をしました。

 

今回は4回めの比田井南谷展です。

会場の様子をご紹介しましょう。

 

会場はJR新橋駅から徒歩で10分ほど。

場所がわかりにくいのですが、目印は「江南春」という中華料理屋さん。

この隣に

 

とっても小さい看板が出ています。

見落とさないでくださいね(わからなくなったら電話 03 3571 1808)。

 

7Fまでエレベーターで上がり、会場に作品解説が置いてありますので、忘れずゲットしてください。

タイトルと制作年代が書いてあります。

 

この壁面には、今回初公開の作品3点が展示されています。

左壁面の一番右、「作品64-14」にご注目ください。

 

上はニューヨーク近代美術館(MoMA)所蔵の「作品63-14-3」。

今回の作品は「作品63-14」。

これでおわかりのように、展示されているのは連作の最初の作品です。

 

右の壁面では、南谷がアメリカで撮影した8ミリフィルム(ニューヨーク在住の著名アーティストとの合作含む)を始めとする貴重な映像を見ることができます。

日本語と英語でテロップがついています。

 

左は「作品60-1」。

淡墨作品ですが、使っているのは南谷考案の「不思議な墨」。

二種類の古墨を磨り混ぜることによって、独特の立体感を生み出します。

中国の画宣紙を使っているのでよくにじんでいます。

中央「作品63-3」と右「作品64-3」も同じ墨ですが、にじみにくい鳥の子紙を使っており、「作品60-1」よりも濃く磨っているため、独特の立体感が際立っています。

書いたときの筆の動きがそのまま定着する墨の発見に南谷は狂喜し、たくさんの作品を書きました。

多くは美術館やコレクター所蔵となっています。

 

中央の「作品30」は1956年、筆・紙・墨だけではなくさまざまの用具溶剤を使った冒険の時代の作品です。

ここで用いられているのはファイバーボードと墨。

これと似た作品はオランダのクレラー・ミュラー美術館に所蔵されていますが、ほかに類を見ません。

 

右端は1961年の「作品61-8」。

第一回渡米の後、このように細い線の作品を書くようになりました。

細い線を用いて、筆意がいかに空間を支配し、古典のある種の傑作に見られるような強い造形性を創造することができるかという試みであった、と語っています。

 

奥まったスペースに展示された「作品61-6」。

この時期の代表作の一つです。

この左に談話室があり、

 

小品が二点、展示されています。

 

忘れずにご覧いただきたいのが、ガラスケースに収められた資料類です。

左半分は、渡米したときの展覧会ポスターや新聞記事です。

サンフランシスコ・クロニクルの記事には「日本から新しい抽象様式がやってきた」、ニューヨーク・タイムズの長文記事は「古墨の新しい姿」という、ちょっとマニアックなタイトルがついています。

南谷は40歳を過ぎてから英会話を学び、話せるようになってから渡米したので、書の歴史や芸術的特徴について、熱心に説明したのでしょう。

 

ポスターの右には画家、ウルファート・ウィルキ等に書を指導している様子を撮影した写真があります。

南谷は拓本や書籍一千冊を送っていたので、手本は書かず、古典を直接学ばせました。

欧米のアーティストの臨書作品はこちら

 

その右には、アメリカの大学で書を講義したときのスナップと、著名なアーティストであるアド・ラインハートとフランシス・J・クワークからの礼状を配置しました。

 

ケースの右半分には、南谷の作品制作の源泉ともいうべき資料を並べました。

一番上は、思いついたときに書き留めた草稿を貼り付けたスケッチ帖。

居延漢簡や金文などの形象が見えます。

その下は、「電のヴァリエーション」を始めとする初期作品を生み出した「古籀彙編」。

向こう側に付箋がたくさんついています。

 

その左には、南谷の書道芸術論の手書き原稿が二種。

南谷は「文字を書かない作品」を書き、これこそが「書」だと主張しましたが、その根拠を明確にすべく、思考を深めていった様子がうかがえます。

 

右下は1956年に開催された最初の個展の図録です。

左ページの「作品31」は、現在千葉市美術館蔵。

 

画廊なので入場無料、写真撮影もOKです。

「書の本質は何か」を問い続け、新たな世界を開拓し続けた比田井南谷という書家の仕事を、ぜひご覧いただきたくご案内申し上げます。

 

比田井南谷についての詳細は書籍「比田井南谷ー線の芸術家」(高橋進著)をご覧ください。