神楽坂の美術画廊√k(ルートk)で開催中の生誕110年「HIDAI NANKOKU」展では、いろいろなイベントが併催されています。

2022年12月2日に「南谷流臨書体験」が開催されますので、その内容をご紹介しましょう。

 

まず、「臨書(りんしょ)」とは何か?

書の古典名品をお手本にすることです。

先生が書いたお手本でもいいじゃない? とお思いかもしれませんが、違うんです(きっぱり)。

漢字が誕生したのは今から3000年以上前のこと。

それ以来、優れた書がたくさん書かれました。

これら第一級の名品をお手本にして、そのすごさを体験するのが「臨書」です。

千年、二千年を生き延びてきた名品を臨書して、その素晴らしさを肌で感じることにより、書だけでなく、絵画や彫刻やデザインや建築(ほんとか?)の分野の方々も、何かを感じ取り、新しい可能性が見つかるかも!

 

比田井南谷は渡米して、書を知らないアメリカのアーティストに「臨書」の手ほどきをしました。

 

南谷は、サンフランシスコのシェーファー図案学校の招聘を受け、1959年に渡米しました。

個展や拓本展を開催しましたが、アーティストに書を教えたことも、重要な活動の一つです。

 

シェーファー図案学校の校長先生や教授陣が、臨書をしています。

お手本は、中国と日本の書の古典。

南谷は渡米にあたり、1000冊の書籍を送りました。

その中から好きな古典を選べるのですから、贅沢な授業ですね。

 

南谷はサンフランシスコに住む友人の家に部屋を借り、アトリエを手作りし、作品を制作したり、書を教えたりしました。詳しいレポートはこちら

対象はいわゆる日本文化愛好家ではなく、美術系の教授やアーティストたちです。

書を知らないのにいきなり拓本を見せられて、それをお手本にして臨書するのですから、さぞ困惑しただろうと思いますね?

 

そんなことはなかったみたいです♫

 

見よ! このすばらしさ。

 

と、ここまでは前のブログに書きました。

これからが、12月2日に開催されるイベント「南谷流臨書体験」のご紹介です。

 

開催中の拓本展です。

拓本というと、圧倒的に多いのが「帖(じょう)」と呼ばれる冊子の形になったもの。

編集する前のものを「整本(せいほん)」と言いますが、南谷はこの「整本」を好み、収集しました。

「南谷流臨書体験」では、展示されている拓本から好きな字を選んで臨書します。

拓本の文字は、すべて今から1500年以上前に書かれ、現代に伝えられたものです。

ワクワクしません?

 

最古の刻石「石鼓文(せっこぶん)」(BC.374)です。

太鼓のような形をした10個の石に刻されています。

今回は、その中から2枚の拓本が展示されています。

 

萊子侯刻石(らいしこうこくせき)」(AD.16年)

後漢初期の素朴な隷書(れいしょ)です。

 

開通褒斜道刻石(かいつうほうやどうこくせき)」(66年)

岩の割れ目を避けて文字が彫られています。

割れ目と点画が一体になり、美しいと評判です。

 

前にご紹介しましたが、

 

これ、南谷が教えたサンフランシスコの方の「開通褒斜道刻石」の臨書です。

すばらしい感性!

点々がかわいい!

 

右が「石門頌(せきもんしょう)」(148年)、左は「楊淮表紀(ようわいひょうき)」(173年)。

上の「開通褒斜道刻石」と同じトンネルの内壁に刻されていましたが、漢中博物館に移されました。

 

郙閣頌(ほかくしょう)」(172年)

字形や線はゆったりとして、おおらかな気分にあふれています。

 

続いて北魏です。

 

「龍門造像記(りゅうもんぞうぞうき)」(5世紀末〜6世紀初)

中国河南省の龍門には、多くの洞窟が掘られています。

その中の古陽洞の内壁には造像記がたくさん刻されており、中でも優れたものが「龍門二十品」として知られています。

今回はその中から8点が展示されています。

 

鄭道昭が書いた「鄭羲下碑(ていぎかひ)」(511年)

楷書ですが、ほかに例を見ない丸みを帯びた独特の字形と、うねるような線質が印象的です。

父、鄭羲の頌徳碑なので厳粛に書かれていますが、鄭道昭はほかにもっと自由な書を山々の岩に書き残しました。

 

当門石坐題字(とうもんせきざだいじ)」

中国山東省雲峰山の山頂近くの岩に刻されています。

はるか眼下に広がるのは、のどかな田園風景。

ここに腰を下ろして、絶景かな、などと言ったのかも(中国だけど)。

 

「泰山金剛経(たいざんこんごうきょう)」(北斉)

中国の名峰、泰山の中腹に、巨大な文字で金剛経が刻されています。

あまりに巨大な文字(約50cm四方)なので、1文字ずつ拓本に採られ、流通しています。

 

南谷が大好きだった「道」も泰山金剛経です。

 

書道って堅苦しいイメージがありますが、こんなにバラエティーにあふれた、自由で楽しい作品もあるんです。

アメリカのアーティストも夢中になった臨書。

なんだか面白そう。

そんな風に感じたら、気軽に参加してみませんか。

 

南谷流臨書体験

日時:2022年12月2日午後3時から

会場:√k

講師:高橋蒼石 

拓本解説:比田井和子

√kに申し込みが必要です。

 

 

参考ブログ

雲峰山と鄭道昭

仙人が棲む山

中国旅行・泰山金剛経