春日井市道風記念館で「比田井南谷〜線の芸術」展が始まりました。

 

 

エントランスには巨大な「電のヴァリエーション」!

 

そうです、今回は、千葉市美術館所蔵の、史上最初の前衛書とされる「電のヴァリエーション」が展示されているのです。

他にも、千葉市美術館、京都国立近代美術館、佐久市立天来記念館のご協力をいただいて、たくさんの南谷作品をまとめて見ることができる初めての展覧会です。

 

すべてを撮影可、SNS投稿可、にしたかったのですが、美術館や個人の所蔵品もあるので、撮影可能スペースを作りました。

9月18日までは、上の二点を撮影することができます。

左は「鳩」(1951年)、右は「作品8」(1949年)で、「家庭」という副題がついています。

もちろん、ご本人やお友だちが入った写真もOKです。

このスペースの作品は、休館日ごとに展示替えをします。

 

いわゆる前衛書作品(本人は「心線作品」と呼びました)は、制作した年代順に展示されています。

最初はもちろん「電のヴァリエーション」(1945年・千葉市美術館蔵)。

一番右の作品です。

 

敗戦の年、長野県の疎開先で、新たな書を模索していた南谷の頭に突然ひらめいた父、天来の「行き詰まったら古(いにしえ)に還れ」ということば。

それに導かれるように古代文字の字書「古籀彙編(こちゅういへん)」を開き、三千年前の「電」の字形を夢中で展開してできあがった作品です。(詳細はこちら

アクリルの透明なケースの中に作品が浮かんでいる、特別の表具をしてくださっています。

 

その左は「作品9-電第二」(1951年・京都国立近代美術館蔵)。

第三回毎日書道展に出品され、その後もいろいろな美術館の企画展に展示されました。

この二点をいっしょに見ることができるのはラッキーと言わねばなるまい!

 

写真左の三点はキャンバスに油絵具で書かれた意欲作(右の二点は千葉市美術館所蔵)。

 

南谷の作品は、生涯にわたって、変貌を遂げ続けました。

この展覧会では、それぞれの時期の作品を見ることができます。

 

特別な古墨に別の墨を磨り混ぜると、書いた時の筆の動きをそのまま定着させることを発見し、この墨を使ってたくさんの作品が生まれました。

上の写真(左端の一点を除く)には、この「不思議な墨」と鳥の子紙を使った時期の作品がうつっています。

上から下へ、左から右へ順に書いているので、点画の間に筆順のような脈絡(みゃくらく)が生まれ、「書」の要素がより強く感じられるようになりました。

 

右から5点目と6点目(春日井市道風記念館蔵)は、ベニヤ板に鳥の子紙を貼り、紙と同じ色に調合したリキテックス(水性アクリル絵の具)のジェッソ(地塗り剤)を塗り、不思議な墨で書き、その上にアクリルのマットニスを上塗りして墨を保護しています。

作品が丈夫であることをアピールするために、パーティーでテーブル代わりに使い、汚れたらクレンザーで拭いてみせたそう。

南谷らしいエピソードではありますが、何という暴挙!

この時期の作品は力みが消え、安らかで瀟洒な趣を持ち、ユーモラスな表情が生まれています。

私は、この時期がもっとも南谷らしく、芸術的に優れているように感じます。

 

左端の作品は、3つの小さい点と、中央上寄りに押された印で構成されています。

だれも思いつかないような、斬新な試みです。

これが南谷ではなく無名の新人の作品だったら、公募展に出品しても落選しちゃうかも。

 

 

文字作品や臨書もたくさん展示されています。

これは、天来が主催した「大日本書道院展」の第一回展に出品されたもの(南谷は25歳)。

王羲之の郷里人帖の臨書で、おそらく藤原行成の臨書が原本だと思います。

天来は南谷のこの作品を愛し、最晩年、病床のそばに置かせました。

 

覗きケースは10個で、いろいろな資料を見ることができます。

 

中でもご注目いただきたいのが「電のヴァリエーション」をご覧になった手島右卿先生からのお手紙です。

本邦初公開!

真ん中より少し左に「あなたの作品は会場の華でした」と書いてあります。

すばらしい筆跡です。

 

南谷は、父天来の意見に従って、書家として生きることを選ばず、横浜精版研究所という会社を設立しました。

電線に、メーカーの名前などを印刷するためのロールを作る会社です。

文字サイズは0.2ミリから10ミリ以上のものまであるので、南谷みずから視認性の高いフォントを作りました。

展示されているのは、横浜精版研究所で実際に使われていたもの。

これも、本邦初公開です。

 

南谷制作の年賀状もあります。

こういうかわいい一面もあったのです!

 

年代を追って南谷の代表的な作品を鑑賞することができる展覧会。

開催のためにご尽力くださった春日井市道風記念館さま、とくに学芸員の鈴川宏美さんに心から御礼申し上げます。

なお、前期展示は9月25日(日曜日)まで、9月27日(火曜日)から後期展示(約半数が入れ替え)が始まります。

 

比田井南谷に関するブログはこちら

 

 

9月10日には講演会がありました。

私が南谷の生涯と作品について、高橋蒼石先生が南谷の臨書について、お話しました。

 

これ、筒井茂徳先生が撮ってくださったのですが、撮影場所は観客席の一番うしろ。

あんなに遠くから、こんなに鮮明な写真を撮るなんて、まさに神業!

ありがとうございました。

筒井先生のブログ「古碑帖の正確な見方」はこちら

 

講演の内容などもご紹介したかったのですが、あまりに長くなるので次回にまわします。

 

最後に、展覧会が開催されている「春日井市道風記念館」にお越しくださる場合の注意事項です。

新幹線の名古屋駅から中央本線で勝川(かちがわ)へ出て、そこから歩くと30分かかります。

バスは、勝川発が9時40分、12時00分、14時15分の3つしかありません。

 

勝川駅周辺でランチを食べられるお店は少ないので、私が行ったレストランをご紹介しましょう。

 

勝川駅南口から徒歩2分の小さなレストラン、カントリー・キッチンです。

詳細なブログを見つけました。こちらです。

 

私がいただいたのはオムライストマトソース。

飲み物はスープをチョイス。

両方ともとっても美味でした。

でも。。。。。

12時前に入ったので、後から若いカップルが何組も入ってきました。

みんな注文するのは、オムノッケのハーフアンドハーフ。

次回はそれにしよう、と決意を新たにしたのでした。